【2】

□fix you
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【fix you】



『好き』だけじゃどうしようも無いこともある。
誰にも治せないものがある。





前から気付いていたけど。
それは癖なのか無意識なのか、それとも意識してか。
触れられるのは嫌じゃなかったから、そのままにしておいた。
押し付けられる唇や笑顔で誤魔化した痛そうな瞳も。

「……治せるかな?」

だけど、口に出して言われたのは初めてだった。

「何が?」

問い掛けながら、だけど何について言っているのかはまだ左頬に触れ続ける指先で察しがつく。

「あんたのそれ」

珍しく冷たい指先が頬の傷をなぞる。

「…治したいの?」

冷たいままの手を握って、自分の熱で温めてあげる。
まるでちぐはぐな答えをされたみたいに一瞬だけ瞳を丸くして。
だけど、すぐに唇にはいつもの笑みが戻る。

「あんたは例外だから」

今度は私が瞳を丸くする番。
今度こそ質問にそぐわない答え。
……まだ、目を離した瞬間に逃げられそうな気がする。

−もう、大丈夫。逃げません

何度も笑って言う言葉を信じてるはずなの。
……いえ、信じてないから逃げられそう気がしてるのかも。

「何の例外?」
「空に向かって怒るの、あたし嫌だから」
「怒らなければいいんじゃない?」
「起こらなければいいと思ってるよ」

若い私たち。
私だって永遠を願うとは言わない。
だけど、この人はいつもでも『終わり』を見つめてる気がする。

「……私は例外じゃないわよ」

他にもあなたを愛してくれる人はたくさんいる。
そう伝えたいのにまたそれをこの人の考えで捉えるから。

−『例外』が無いなら最後には捨てられるだけ。

信じてないのはお互いさま。
信じたいのに信じきれないのはお互いさま。

「うん、あたしたぶん染谷のそれ治してあげたいんだと思う」

温かくなった指先でまた頬をなぞるから。

「……私は貴方を治してあげたいわよ」

怖がらなくていいから、信じてみたら?
それでも、そう口に出来ないのは自分が信じきれないから。
また逃げたら?
恐怖に潰されて心閉ざされたら……私はまた追いかけるだろう。
それでも、同じことを繰り返すと気付いたら?

「……あたしはどこも悪くないよ」

どんなに頑張っても、うまくいかないとしたら?

−愛されることに怯えなくなりますように
−愛されることから逃げ出さなくなりますように

好きな人のために祈る以外出来ないなら『好き』なんて何の役にもたたない。

「まあ、あんたのその傷。セクシーな女海賊みたいで好きだけど」

また、笑う。
いつも泣かずに笑うから。

「……本当に?」

低く問い掛けて。
また笑う顔を見つめて。
………それが本当なのくらいは私にも分かるから。

「うん、ほんと。だって、それも染谷の一部だもん」

『正解』は分かっているのに。
それを共有出来ない今がとても歯がゆい。

「…ありがとう」

今はまだ共有出来ないなら何度でも繰り返せばいい。
もし逃げられたら追いかければいいだけ。
『好き』は役に立たなくても追いかける原動力くらいにはなる。



















『傷』込みで愛してくれるなら、私も同じようにするだけよ



END
(12/01/06)

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