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□無道が耳栓を買いに行く話
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【無道が耳栓を買いに行く話】



あたしのわがままだけど。
うん、わかってますわかってます。
2回言ったら『1回でいいのよ』ってうちのハニーは相変わらず厳しく。
だけど、あたしのわがままを聞いてくれたのは………やっぱり愛だと思う。



「へっへっへっ」
「…その笑い止めて」

小さな小さな声での苦情はあたしのすぐ隣、腕の中で。
いつもは明るい中で抱き締めてるのに今は闇に彼女の顔がまぎれているのは夜だから。
うん、夜だから。
ちなみにもちろんベッドの中。

「……静かに寝ないなら帰るわよ」
「今更?」

あたしも染谷に合わせて小さく囁いて。
それでも闇に慣れた瞳に映る染谷の姿に頬が緩むのが堪えきれない。
触れるだけのキスは許してくれたから。
髪を撫でながら何度も繰り返す。

「……順」
「はいはい」
「『はい』は1回」
「染谷さん、口うるさ」
「……………」
「そういうとこも好きだけど」

―キスだけよ。

そう言われてたから。
そうは言われてたけど。
でも、回数とか深さの制限はされなかったから。

「んっ……」

少しだけ深いキスを仕掛けてみた。
…仕掛けるって言うか、もう、なんか我慢出来ないからちょっとだけでもつまみ食いの気分だったんだけど。
少しだけ上唇を強く吸って、舌先でくすぐってみる。
精一杯のセーブ。
ここで止まれたあたし、マジで偉い!

「ぁっ…………」

なのに、吐き出された息がなんかもう艶めかしくて。
それに自分でも気付いて、恥ずかしそうに視線を逸らす顔が完全にアウトで。
もう少しだけ…。

「…駄目よ」

だけど、予想通りに肩を押し返してくる手の平の感触。

「…何で?」
「何でじゃないわ。何が『朝、一緒に目覚められるだけで満足』よ」

肩を押し返して来る手に自分の手の平を重ねて。
そう言ったのは確かにあたし。

―ヤるだけヤって帰られるのは嫌だ。

そう言ったのも確かにあたし。

―ただ、あんたを抱きしめたまま朝まで一緒にいたい

……そうわがまま言ったのも確かにあたしなんだけど。
船の上でアダム・サンドラーが歌ったみたいにただあたしも歌っただけ。
『大人になれば君と毎朝、一緒に目覚められるのに…』って。
握り返してきた手を寒くないように毛布の中に。

「…っぅ!」
「………あ」

触るつもりはなかった……んだけど……。
ただ、手の甲がかすっただけ。
『触る』って言える程も触れてないけど…。

「染谷さん………………………硬くなってますけど?」
「っ!…馬鹿!」

小さく鋭く囁かれて、背中を向けられる。
それでも手の甲をかすっただけの胸の突起がその……硬くなってたのはわかった。

「染谷」
「………………」

この体勢は確実に拒絶。
けど、ね、ほら……。

「……染谷」
「っ…………!」

耳元で囁いてその縁を舌でなぞって。
強張る背中を後ろから抱き締める。
ああ………ほんと、これだけじゃ足りないとかどれだけなんだよ…。
  
     
  
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