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□自分の嫁が世界一可愛いのは当然のことだと思いませんか?
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【自分の嫁が世界一可愛いのは当然のことだと思いませんか?】




今日も今日とて惚気るお庭番in静馬&増田部屋。







あのね、綾那に聞いてもらえないのも本人に言い過ぎて『馬鹿じゃないの』って呆れられてるのも知ってる、けどね。
………いい加減、人の恋人を解放しないと私も怒る。

「でね、そこで染谷が……」
「順」

うちの彼女はとてもいい人です。
酔っぱらいに絡まれてる柴犬のように耳と尻尾をぺったりしながら(ああ、そのぺったり具合も可愛い)、それでも律儀に相槌をうってるから。
呼んだ名前は『いい加減にして』の意味。

「はい、何でしょう、姫」
「姫、言うな」

こっちはこっちで忠犬で。
尻尾をぶるんぶるんしながら近寄ってくる茶色の大型犬が一匹。
あっちが柴犬ならこっちは悪戯好きで賢いゴールデンレトリバー。
ボールを投げたら喜び勇んで取りに行くタイプ。

「いい加減にして、恵ちゃん困ってるから」
「何で?」
「何で、じゃなくて」
「恋話ってのはみんなで共有して楽しむものです。あと、夜の事情ならぬ情事話も」
「帰れ」
「ひどっ!」

毎日毎日毎日毎日。
よくもそんなに喋ることがある。

「だって、染谷かわいいもん」

言えばケロッとした顔で返ってくる言葉に呆れるを通り越して感心する。

「あ、もちろん姫もかわいい。姫、宇宙一」
「そこで比べてくれなくていいし。後、ゆかりがナンバー1でいいよ」
「夕歩はナンバー1、染谷はオンリー1」
「なに、そのうまく騙してる感じの台詞」
「自分の嫁が世界一キュートなのは当たり前のことだと思いませんか!」

順のペースにはまって、会話にすらならない。
だけど、またうちの恋人を捕まえて(…うん、本当に恵ちゃんいい人すぎる。『聞きたくない』って断っていいんだよ)惚気だすから。
メールをうったのはその飼い主へ。

『迎えに来て』

すぐに返ってきたメールを読んで……ああ、この飼い主はよくわかってるとつい苦笑。

『追い出したら勝手に帰ってくるから放っておいて』

携帯から顔を上げれば、またまたぺたんとなった尻尾と耳の恵ちゃんの姿。
その姿もね、可愛くて好きなんだけど。
……今のこの順に独占されてる感じは面白くない。

「順」
「んー?」
「ゆかりが部屋で待ってるから今すぐ来て、って」

『誰がそんなこと言ったのよ?』と苦情を言う親友の顔が頭を過ぎったけど気にしない。
飼い主はちゃんと責任をもって世話を見ないと。

「お!マジ?」

尻尾全開、挨拶もそこそこに出て行く背中を見送る。

「久我さんて……」
「うん」
「…本当に染谷さん好きなんだね」
「…うん」

やっと解放された恋人の横に行って『お疲れ様』のよしよし。
頭を撫でるとくすぐったそうに首をすくめて真っ赤になるから。
もっと撫でたくなる。
…そして、さっき順が言ってた言葉は確かにそうかも知れない、なんて。

「…恵ちゃんが世界一可愛い」
「ふぇっ?」
「世界で一番恵ちゃんが可愛い」
「ゆゆゆゆ、ゆーほの方がかわいいよ!あと、久我さんとかの方が!」

ぶんぶん振られる手を握って。
言った意味はたぶん伝えたかった言葉と少しだけ違う気もするけど。

「恵ちゃんが世界一だよ」
「………っ!」

真っ赤な頬に唇を押し付けて。
……うん、確かに。
自分の恋人が世界一可愛いのは当然のことだと思う。

















「………夕歩」
「聞きません。迎えに来なかったゆかりが悪いんだよ」
「もの凄い勢いでルームメイトいるの関係なく抱きついてくるから思わず蹴り飛ばしたわよ」
「順の自業自得だね」
「たまに何であの人が好きなのかわからなくなるわ………」
「良いこと教えてあげる、ゆかり」
「なに?」
「自分の恋人は世界一可愛いんだよ」
「……私、好み的には夕歩の方が好きよ」
「私???」
「ちっちゃくて可愛くて『女の子』って感じが。恋愛じゃないけど」
「…それ順には言っちゃダメだよ」
「たまに何であの人が好きなのかわからなくなるの」
「それ、さっきも聞いた」
「あの人よりも付き合いやすい人もたくさんいると思うの」
「それも順に言っちゃダメだよ」
「………でも、あの人がいいんだから困るのよ」
「ゆかりが惚気てる…!」
「自分の恋人は世界一可愛いんでしょ?」
「『可愛い』って言うか……」
「うん、『愛しい』かしら?」
「あ、うん、それだね」




END
(12/04/12)

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