【3】

□※注)これはラブソングではありません
1ページ/3ページ



【※注)これはラブソングではありません】




耳元で鳴り響いてるはずなのにね






普通はね。
普通は理由もつけるものじゃないかな?
あ、でも『恋人になってください』って言われたら理由を言ってるも同然なのかな?
けど、それが体目当てだったりお金目当てだったり。
『とりあえず誰でも良かった』状態だったら……やっぱり理由は必要だと思う。

−連れて歩くと自分の自尊心が満たされるから、恋人になってください

そんな理由なら私がすぐにでもその自尊心をすり潰してあげるけど。
ん、握り潰すとどっちがいいかな?
…あの子の場合は『恋人になってください』じゃなくて『恋人になりたい』だったけど。
そう『なりたい』。


………自分の希望を伝えるだけ伝えたらすっきりした、ってその後が無いのはどうかと思うの。





普段は(…って出だしが最初とかぶってるわね)廊下ですれ違っても声をかけない。
遠くで無道さんの姿を見つけても、近くに人がいたら近寄らない。
なのに、隣に行こうと思ったのは気まぐれと嫌がらせ。
仲良く、ランチ食べてる……なんて『友達』なんだから当然のことなんだけど。

「隣、いい?」
「…………!」
「…………?」
「いらっしゃーい、うぇるかむです。おねえたま」

硬直した無道さんと対照的にいつもの軽い調子で自分の隣を開ける久我さんと。
二人を見比べてから、私が座ったのは驚いた顔をしてる静馬さんの隣。
(小さく小さく無道さんが唸ったのを私は聞き逃さなかった)

「珍しいですね。お一人ですか?」
「私だって一人の時くらいあります。ね、無道さん」
「………まあ、はい」

何を嫌がっているのかは知らないけど。
(久我さん達に私達の関係を知られたくないのか、それとも希望を伝えるだけ伝えてそのままなのを気にしてるのか、はたまた私と静馬さんが並んでるのが不服なのか)
眠そうな顔を嫌そうに顰めるから、首をかしげる。

「眠そう」
「は?」
「無道さん、眠そう」
「ああ、それはですね。上段が揺れると下段も揺れるって言う簡単な物理の法則です」

ぶっ!!、となぜか久我さんがお茶を噴き出すから避けて。
意味が解らず首をかしげるとその動きが静馬さんとシンクロする。
耳栓代がどうこう言う無道さんとなぜか慌ててそれを止める久我さんから視線をずらして。
見つめたのは隣にいる人。

「……私と順」
「ん?」
「邪魔でしょう?向こうに行きましょうか」
「邪魔ではないけど」

予想外だったのは少なからず私と無道さんの関係をこの子が知っていたこと。
わあわあ、言ってる二人(きっとこれはわざと。私とまともに話したくないから)を横目で見て。
もう一度、視線を静馬さんに。
(『なに?あんた起きてたの!!??』『あんな状況で寝られるか!!』とか言ってるから何となく何を言い合ってるかの予想はついた)

「私こそお邪魔?」
「綾那は喜んでると思いますけど」
「そう?」

カチャン、と。
少しだけ強めに静馬さんがカップをテーブルに置く。
それだけなのに言い合っていた無道さんと久我さんが静かになるから。

「…二人とも」
「「………はい」」

うわー、凄い、なんて。
本気で感動してしまった。
ここまで教育されてるとは思わなかった。

「ほら、順。食べたなら行くよ」
「え、あ、うん、けど…」

立ち上がって久我さんを促すから。
なんだか拍子抜けした。
(別に静馬さんに嫌がらせするつもりは無いんだけど。ターゲットはあくまで無道さんだし)

「あ、綾那は座ってて」
「え?」

さり気なく一緒に立ち上がろうとして止められてるから。
にっこり、笑って目線で私の前に座るように促す。
逃げようなんて甘いわよ、無道さん。

「けど、夕歩。あたしもおねえた……」
「順は今からゆかりと事情聴取」
「はい!?いや、待って、なんで?」
「あと、綾那に耳栓代は払ってあげて」
「いーーーーっ!!!!!い、い、い、い、い、意味分かって仰ってますか?姫??????」
「それを今から二人に聞くの」
「いや、払うから!払いますから!!そんな羞恥プレイ勘弁してください!!」
「何で上段が揺れるの?」
「それ分かって聞いてても、分かってなくて聞いてても説明したくないです!」

去るが去るまで賑やかしいから。
二人の姿が見えなくなるまで見送ってから無道さんに向き直る。

「…静馬さん意味わかってるのかな?」
「………さあ」
  
  
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ