【3】
□I see the light
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【I see the light】
…夜、一人で眠るのが怖くなくなったのは何時の頃からだろう?
闇の中、天井を見上げたまま。
まとわりついてくるような闇が苦手だった頃を。
全てを覆い隠してしまうような闇が怖かった頃を思い出してみる。
−側にいるよ
そう言っていたお庭番に縋って眠っていた頃。
そう言っていたお庭番も側にいてくれなかった場所での夜を思い出して。
このまま自分が消えてしまうんじゃないか。
そんな想いを抱えたまま、空が明るくなるのを待っていたあの頃。
……そんな夜を何度も重ねて怖くなくったのかも知れない。
暗い天井を見上げたまま、小さく小さく唇に笑みを浮かべる。
それと同時に泣きたくなって。
ああ、きっと、まだ、私は夜が怖い。
怖い夜に。
淋しい夜に縋っていたお庭番に『もう必要ない』と意地をはったのは自分で。
だけど、『まだ必要なんだよ』そう言うことで縛り付けることも怖くて。
…今でも考える。
自分が何時か消えてしまうんじゃないか、と。
孤独な夜に縋っていた人は今は別の人のもの。
だから?
闇に慣れた目にはカーテンの隙間から差し込む月の光すら眩しくて。
その光に手をかざしてみて、自分が消えていないことを確かめる。
違うんだよ。
一人の夜は確かにまだ怖いけど……。
「…………んぅ?」
「…ごめん、起こした?」
「……ゆーほ、寒くない?」
−大丈夫、寒くないよ
そう答える前に首もとまで毛布を引き上げて。
また『すーすー』と聞こえ始めた寝息に自然に唇に笑みが浮かぶ。
「……寒くないよ。恵ちゃん、暖かいから」
恵ちゃんは温かいから。
私の方に引っ張ったせいで毛布からはみ出してる背中を手でなぞって。
温かい彼女が寒くないように毛布をかけ直してあげる。
違うんだよ。
一人の夜は確かにまだ怖いけど。
だから、隣で眠ってくれる誰かが必要なわけじゃないんだよ。
隣にいてくれるなら誰でもいいわけじゃないんだよ。
その首元に鼻を押し付けて。
彼女の体温と匂いはなんでこんなにも安心出来て……泣きたくなるんだろう?
一人の夜は怖いけど。
一人で眠れない程、もう子供じゃない。
そっとその顎に唇を押し付けて。
小さく小さく囁く。
聞こえなくてもいいから。
だって、こんな言葉じゃまだ足りない。
「……ありがとう」
今、泣き出しそうになるのは夜が怖いからじゃなくて。
あなたが側にいてくれるからなんだよ。
…だから、ずっとずっと離さないでください
END
(12/04/27)