【3】
□ONE
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【ONE】
「……ゆーほ」
「はい。どうしたの?」
「その………」
−自分の彼女に最強最悪に気障な台詞を言って爆笑してもらえるのはサイコーに幸せ!
………なんて、私はそこまで開き直れるほど人間が出来ていない。
「どうかした?恵ちゃん」
目の前で首をかしげる夕歩を見つめたまま。
彼女の刃友が言っていた言葉を頭の中で繰り返してみる。
拳を握って力説していた久我さんは本当に爆笑されて喜んでるのかな…?
「う、ううん。何でもないんだけど」
顔の前で手を振って。
不思議そうに首をかしげる夕歩もまた可愛くて。
同じシャンプーなのにどうしてこうも彼女のものは甘く感じるのか。
…なんて、これも最強最悪に気障な台詞に入るのかな?なんて考えてみる。
「変なの」
くすくす、と。
笑い声さえ心地よくて、耳から入り込んだその音は体の芯から私を溶かしそうになるから。
(これも最強最悪に気障な台詞?)
『可愛い』とか『好き』とか。
在り来たりすぎるそんな言葉達じゃ夕歩の魅力を語るには全然足りなくて。
だけど、何か口にしようとすればまるで魔法にかけられたみたいに何も出てこないから。
夕歩のためになら魔女に声を奪われてでも見つめていたい。
(なんて、これも最強最悪に…(以下略))
「あのね、ゆーほ」
「なーに?」
「…………………」
言葉に詰まる私にまた口元に笑みを浮かべるけど。
夕歩は静かに私の前に座ったまま続きの言葉を待ってくれる。
……そういう所もね、本当に、大好きなんだよ。
(以下略)
「……………」
「……………」
毎日毎日、心奪われて私の心はもう残りわずか。
ただひたすらに恋のどん底に落ちてるんだよ。
(略)
…………なんか、だから、口には出来ないよね、これ。
「ゆーほ」
「はい」
唇だけだった笑みが徐々に頬に広がり、瞳にも広がっていく。
口元を手の平で覆ったのはきっと笑いを堪えるのが辛くなってきたせい。
「……ゆーほ」
「だから、はい」
顔中に笑みを浮かべて返事をするから、ますます何を言えば良いのか分からなくなる。
違うの。
確かに私は夕歩を笑わせたいけど……笑われたいとは思ってない。
「…恵ちゃん」
「…はい」
「恵ちゃんは可愛いね」
「……は…い??」
「だから、大好き」
「はい???」
「返事がいいね」
今度は遠慮無しに小さくそれでも声に出して笑うから。
頬から首にかけて急激に熱くなっていく。
自分が言えなかった言葉をあっさりと口にする夕歩に驚いて。
それと同時に在り来たりだと思っていた言葉も彼女が口にするとこんなにも威力を発揮することに驚く。
「わ、私も…」
「ん?」
「私もゆーほが大好きだよ」
「うん、ありがとう」
………なのに、私が口にすると威力を発揮しない不思議。
なんで?
同じ言葉なのになんでこんなに違うの?
「それ、知ってる」
「あ……うん……」
言葉にしなくても通じてると言えば聞こえはいいけど……私の思考が丸分かり過ぎるのか。
それとも、自分がどれだけ夕歩が好きなのかを発信してしまっているのか。
………どっちにしても『好き』で溢れているのに間違いはないけど。
「だから、無理に言葉にしてくれなくて大丈夫だよ」
「うん…………って、うん???」
目の前に座った彼女はそう言ってまた笑って………目を閉じるから。
もう、本当に、何て、言うか、お手上げ状態!
『好き』で溢れてるっていうのは私にとっては少し違うかも知れない。
どちらかと言うと……
「……ゆーほ」
「はーい」
『好き』があっちこっちに散らばっていて、拾い集めるのが大変。
だって、拾っても拾ってもキリが無いから。
そっ、と触れた唇だって言葉になんて出来ない。
……うん、この感動を表す言葉なんて見つかんないよ!!
だから……。
「………もう1回いい?」
「…どーぞ」
大人しく降参しよう。
……なんて、そう言えば久我さんの言っていた言葉は確かにそうなのかも知れない。
−彼女が笑っていれば最高に幸せ。
あっちこっちに散らばった『好き』のカケラをかき集めてあなたに届けたい。
………以下略
END
(12/04/27)