【3】

□We found love/Make 'em laugh
1ページ/1ページ



【We found love/Make 'em laugh】




虹のかわりに何を手に入れたらいい?







ぴったり、と。
ぴったりと自分の背中に張り付いている影のように。
いつの間にかあの子は私の背中の影になっていた。

「ドロシー討伐隊は何時くらいに到着しますか?」
「もう、それはいいわよ」

窘めればニカリと笑って、肩をすくめる。
笑顔で言う趣味の悪い冗談も。
勇敢な少女よりも西の魔女を応援してしまうあたり、私とこの子のひねくれ具合は一致している。
だって、ほら、歌にもなってるくらいだから。

−誰にも愛されずに死んでいった

……って。
そんなの悲しすぎるから。
せめて、ひねくれた私達だけでも悪い魔女を愛してあげよう。
そう産まれついただけで人生を決められるなんて……あまりにも滑稽すぎるから。

「フられる時にですね」
「なに?」

人を見下ろした体勢のまま。
顔に落ちてくる髪は甘い香りがして。
だけど、くすぐったいから手を伸ばしてかき上げてあげる。

「おねえたま、フられたことあります?」
「私を何だと思ってるのかな?」
「んー………女ターミネーター?」
「その喩え嬉しくない」
「フられた時にですね、理由を聞くじゃないですか」
「そういうもの?」

腕立てをするみたいに腕を曲げて。
掠めた唇は唇じゃなくて耳たぶへ。
ゾクゾクとくすぐったいから首をすくめて。
そのまま、耳元で笑ってるから掴んだ髪をグッと引っ張る。

「…聞いた理由がですね」

髪を引っ張られたまま、耳の縁にそって舌をはわせるから。
今度のゾクゾクは別のモノ。

「例えば『性格が暗い』とか『ダサい』とか『ブス』だとか」
「久我さんがそんなフられ方するとは思わないけど」
「例えばですよ」

体を起こして。
一つ、また一つとボタンを外していく動きを目で追う。
口元に浮かんだままの笑みと対照的に笑みを失っていく瞳と。
私と彼女。
きっと、同じような顔をしてる。

「そういう外見的なモノだったら、『よし!じゃあ、変わってやろう!』とか思うじゃないですか?」
「整形とか?」
「まあ、それも含めてですね」

躊躇いなく。
(本当は躊躇っているのかも知れないけど)
最初の時からこの子はなんの躊躇いもなく人の下着を外す。

「自分が変化したらチャンスはまだあるかも!って、そう思えるじゃないですか」

胸に顔を埋められた瞬間の漏れる息はどうにか飲み込んで。
喋り続ける彼女の声を聞き続ける。
淡々と喋り続ける彼女はことを進める気があるのか、無いのか。

「……だけど、産まれついちゃったもので否定されると整形のしようもないですよね。『この製品は遺伝子組み替えされてません』ってか『遺伝子組み替え出来ません』みたいな」

人の胸に顔を埋めたまま(冷静に見ればずいぶんふざけた格好だけど)、動きを止めるから。
冗談めかした言葉はたぶん習慣になったもの。
……人を笑わせるのは逃げ道だから。
make 'em laugh!
道化になるのは逃避するのに楽だから。
産まれついたもので人生を決められるんなら、馬鹿馬鹿しいの一言。

「……もし出来たら、してた?」
「ん、何がです?」
「遺伝子組み替え」
「大豆とかと同じ扱いなら、あまりして欲しくはないですね」

望みの無い世界で私たちは探してた。
目の前にあるモノの代わりになるモノを。
『虹』の代わりになるモノ。
本当に欲しいモノの代わりを。

「…久我さん」
「何でしょう?」

顔を上げて。
だけど泣きはしないだろう、と。
きっと泣けないんだろう、と。
そんなの身をもって知っているから。
指先でなぞった唇に自分の唇を押し付ける。
ほら、また平気なふりして笑ってる。

『泣いていいよ』も。
『無理して笑わないで』も。

きっと、言われても実行は出来ないから。
私は出来ないから……口にはしない。
気休めにもならない言葉はこの子相手に口にしたくない。
笑わせたいのは大事な誰かなのか。
それとも自分自身なのか。
たぶん、私も彼女も自分でも分かっていない。

「……楽しいことの続きしない?」
「……喜んで」

『虹』は手に入らないから。
私たちは何時までもこの望みのない地にいる。
だけど、望みのない世界で私たちは見つけたんだと思う。


We found…………

















虹のかわりに見つけたのはイエローダイヤモンド。
傷だらけで光り輝くイエローダイヤモンド。






END
(12/04/28)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ