【3】

□Stereo Hearts
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【Stereo Hearts】




あたしのハートはあんただけのステレオ






「染谷」
「…………………」
「染谷ってば」
「…………………」
「ごめん、あたしが悪かったから」
「…………………」
「マジで機嫌なおしてってば」

正座した背中に、同じように正座したまま頭を下げて。
ああ、怒ってる怒ってる。
振り返ってくれないから、バレないようにため息をついて。
反省するべきなのは分かってますけど。
けどね、この件については染谷にも責任はある。
あんな可愛い声出されたら、我慢なんて出来ないに決まってる。

「そーめーや」
「……………………」

絞められた首はまだひりひりして痛いし。
何度呼んでも振り返ってさえくれないし。
返事もしてくれないし。
同意の上でヤッたんだから、あたしだけが悪いわけじゃないのになぜかあたしだけ責められるし。
ほら、『恋愛』なんて『恋人』なんてこんなにも面倒で。
ほら、『関係』なんて『信頼』なんてこんなにも重たくて。

「ゆかりさん」
「……何で名前なのよ」

舌に乗せてみた音はなんとも不慣れな感じがして。
それは染谷の耳にも同じ。
あたしの音では聞き慣れてないはずだから。

「…やっと返事した」

馬鹿馬鹿しいと思ってたのはラブソング。
本当に馬鹿なのはそれすら歌えなかったあたし。
振り返って拗ねたように睨むから。
今、心で鳴ってるのは…………何だろう?

「ごめん、だから、好き」
「『だから』の意味がわからないわ」

ラブソングと呼ぶには拙すぎるメロディは何て呼べばいい?
それでもずっとずっと心の中で鳴り続けてるのは染谷への『想い』。

「あんたがずっと怒ってると心が痛い、って」
「何で他人事みたいに言うのよ」
「痛いけどそれも悪くない、って」
「あなた、そういう性癖だったのね」

頭じゃなくて、心で鳴ってる。
大音量で鳴り続けてる。
お気に入りの歌を気付いたら口ずさんでるみたいに。
お気に入りの曲が頭の中で大音量で鳴り続けてる時みたいに。

「ごめん、だって…」

怒っていても今はいずれ振り返ってくれることを知ってるから。
そのまま、あたしを追いて行ったりしないことを知っているから。
だから、痛くてもそれすら楽しい。

「染谷、怒った顔も可愛い」
「…相変わらずね」

あたしの心はあんたの為だけに鳴り続けるから。

「あたしも素直になったもんでしょ?」

ひとつひとつ。
音にのせた気持ち、聞いてあげてよ。







…だって、あたしの心はあんただけのステレオ。



   
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