【3】

□Fools like me
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【Fools like me】





「前から思ってたんだけど…」
「ん?」
「それ、どうにかならないの?」
「可愛いでしょ?」
「だから…」







嬉々とした顔で付きだした携帯の待ち受け画面にはなぜか彼女の刃友の写真。
確かに可愛いのは認める。
どれだか好きかも知ってるつもりだけど、これならまだグラビアアイドルでも待ち受けにされてる方が………って、それはそれで嫌ね。
しかも、微妙にカメラ目線じゃなくて盗撮っぽい辺りもさらに嫌。

「うちの姫には心蕩かす作用がありますんで」
「チョコレートみたいにドロドロになってるのね」
「なんか、エロいねー、それ」
「チョコレートファィターみたいな目に合わせたくなるから止めて」
「いや、でも、あたしアレやれる自信あるよ!」

話がそれてきたから戻すために手に持った携帯を取り上げて。
画像のフォルダを確認すれば(『その【まいえんじぇるず】ってフォルダは見ないで!』と叫ばれたから最初の数枚を見て確認した後、フォルダごと削除してあげた)、出てくる夕歩の写真の数々に呆れるを通り越して感心した。

「………まいえんじぇるたちが」
「あなたの天使は網タイツやらガーターでポールにしがみついてるのね」
「あれは芸術なの!いかがわしいモノでは無く、純粋に心の癒しを求める為に保存してあったのに!」
「同じフォルダに夕歩を入れてなかっただけ褒めてあげる」
「ん?だって、夕歩は夕歩専用のフォルダがあるもん」
「みたいね。しかも、Part25まで」
「そこに入ってるのはそれだけだけどね。ちゃんと永久保存版で別に保存してるし」

……妬くとかそう言う感情の前に通報した方がいいのかも、という思いがよぎる。
にへら、といつものゆるんだ顔で笑って(最近、ゆるんでるのは頬の筋肉と言うよりも頭のネジの気がする)自信の一枚を説明し始めるから、本気で止めて欲しい。

「…ねえ」
「はい」
「それ私の………いいわ、やっぱり何でもない」

ひらひら、と手を振って。
言うのも馬鹿馬鹿しいし………自分の写真が無いのは今確認したばかり。
(唯一見つけたのは夕歩の後ろで見切れて写ってる自分で何て言うか……まあ、いいわ、もう)

「なに?」
「何でもないわよ」
「染谷の携帯も見せてよ」
「嫌よ」
「あたしのは見た癖に。あー、もしかして見られちゃいけないモノがいっぱいあるんだ」
「無いわよ」

人から携帯を奪おうと手を伸ばしてくるから、それを避けて。
それでも人にのしかかってくるから、結果的に押し倒された状態。
馴染んできた甘い香りを吸い込んで、人の上でジタバタと携帯を奪おうとしてる人の後頭部に一撃。

「いたっ!後ろからとか染谷、卑怯!」
「いいから、おりなさい」
「いやだ。携帯云々を抜きとしてもあんたの上からおりるのはいやだ」

また人の上でジタバタするから苦しくて、順の頬に手の平で触れて自分の方を向かせる。
目が合った瞬間にへらと笑って、それでも顔を近づけてくる時には頬もネジもゆるんでないから………今の顔、結構好きかも、なんて。

「……なんで、私のは無いのよ?」
「は?あー……、なに、妬いてんの?」

またにへらって顔に戻るから。
もう一度、キスすればお気に入りの顔に戻るかと思ったけどそのまま。

「…キス1回損したわ」
「何が損なのか知らないけど、あたしは得したからいんじゃない?」

額に1回、頬に2回、唇に1回。
損した分のキスは利子がついて返ってきた。

「そーいや、染谷のって無いや」
「いいわよ、どうせ貴方はどこかの堕天使たちの方が見てて楽しいんでしょ?」
「出来たら戦うセクシーエンジェルが一番好きなんだけど。……あのさ」

少しだけ体を起こして、順は自分の頭を人差し指でトントンと叩く。

「あんたのはここに山ほど詰まってるから。お気に入りの画像」
「凄い、上手な騙し文句ね」
「何で信じないかなー、ほんとだって。最初から一つ逃さず記憶されてんだから」

もう一度トントンとこめかみを叩いて。

「何時でもどこでもどんな顔でもお気に入りだから、全部保存するならあたしあんたと一緒にいる間はずっとカメラまわしてないといけなくなる。だから、ここに入ってます」

少しだけきまずく笑うのは……言ってることが本当だから。
そのくらい理解できる程度にはこの人の事は私の頭の中にもインプットされてる。

「だって、どんな染谷も好きすぎて選べません。てか、削除とか無理な話だから脳みそに焼き付いてるし。うちの嫁、マジきゅーと」
「そういう言われ方すると凄く私、馬鹿っぽいわね」
「むしろ、あたしが染谷バカ」

深々とため息をついて。
それでも、私のシャッターチャンスはたぶん今。
『好きです』
そう瞳だけで言う時の顔は何時でもお気に入りだから。

「……もう、いいわ」
「不服なら今から連写でお撮りしましょうか?」
「お断りよ」

確かに頭の中に何時でもお気に入りの顔があるけど。

「まあ、もちろん、あんたを生で見つめてる時が一番好きなんだけど」


そこには大いに同意するわ。

……これじゃ、どっちが馬鹿みたいなのかわからない。














「思い出した」
「なに?」
「そーいえば、ベッドの中にカメラ持ち込んだら『別れるわよ!』って怒ったじゃん」
「私も思い出したわ。やっぱり、あの時別れるべきだった」
「いや、ちょっ!それは止めてください、染谷さん!!」





END
(12/06/08)

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