【3】

□こういう休日の過ごし方
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【こういう休日の過ごし方】




今日は薄暗い空から雨が降っている。

−こんな日には部屋でまったりしましょうよ

折角の休日を一日、それで潰してしまうのは勿体ない気もするけど。
やたらと雨の日にはテンションがあがるあの人と外に一緒に出かけるのも大変そうだし。
(雨が降るとやたら飛び回って歌うから鬱陶しい。何度言っても傘を振り回して人をびしょ濡れにしたがるし)
こっちは雨だと髪の毛は言うことをきかないし、傷が痛むしでただでさえ憂鬱なのに。

「順」

順達の部屋のドアをノックしても返事は無し。
順も綾那も出てこないから首をかしげる。
綾那はともかく自分で誘ったんだから順はいるはず。
(別に綾那がいても文句を言うつもりは無いのに、何時も私の顔を見るとそそくさと部屋を出て行く)
鍵がかかってなかったからドアを開けて……返事が無かった理由を知る。

「…何、やってるのよ?」

その質問に返答を返さなければいけない人から返事は無い。
それは眠っている時に『寝てます』と答える人はいないわよね。
部屋の真ん中、大の字になって寝てるからいつもの冗談の類かも知れない、と思い直して足先で脇腹の辺り(順の弱点)を突いてみる。

「ん〜ぅ……」

低く唸って顔を顰めて、だけどは瞳は開かないから。
………本当に寝てるのね。
(だって、起きてたら脇腹に触れられてこれだけの反応で済むはずない)
風邪ひくわよ、なんて口にしても仕方のない事なんだけど。
たたき起こすか、それともこのまま寝かしておくか。
はたまた、無かったことにしてこのまま帰るか。
一瞬だけ悩んで、結局眠る順の隣に座り込む。



すーすー、と気持ちよさそうな寝息とぽっかり開いた唇が無防備すぎて。
これで本当にこの人、お庭番なんだろうか?と疑問に思う。
(今度、夕歩にこれが本当に役に立つのか聞いてみよう)

「たぶん『役にたたない』って言われるわよ、貴方」

温厚な友人はこの人の事になると、とことん辛辣だから。

「……貴方、愛されてるわよね」

その信頼関係が微笑ましくて、羨ましい。
腹いせに鼻をつまんでみて、それでも起きないから。
それならと、ぽっかりと開いた唇に唇を重ねる。
ふにふに、と。
ただ押し付けるだけ押し付けて、その柔らかさを味わう。
こんなキスは起きてる時には出来ないから、しばらく堪能した後に離れる。
(こんな事をすれば調子に乗ったお庭番はエキサイトするから)
自然に綻んだ頬はそのままにして。
最初を思い返せば、今こんな事になってるのが信じられない。
(何処が『最初』か尋ねられると自分でもよく分からないけど)
『愛』はいらない、と駄々をこねていた人が今は全力で愛情をそそいでくれるから。
(ああ、寝顔が可愛い……)
もう一度、鼻をつまもうとして順の頬に触れて……思い直す。

「順」

寝顔も眺めててあきないけど。
よく眠ってる子犬を起こすみたいで気がひけるけど。

「起きて」

貴方の声が言葉が聞きたいの。

「……んぁ?」
「人との約束忘れてお昼寝?」

順の顔の横に手の平をついて上からのぞきこむ。
やっと開いた瞳を見つめながら抗議の言葉。
眠そうに繰り返す瞬きの回数を数えながら、まだ半分以上眠ったままの順の言葉を待つ。

「…染谷ぁ」
「ちょっと、順」

伸びてきた腕に捕まってそのまま床に引き倒される。
硬い感触に眉を顰めて、だけど目の前の唇は満足そうに笑ってる。
少しだけ目線を上にずらせば、さっきは開いていた瞳がまた瞑られているから。
ぎゅーっ、と抱きしめられた順の腕の中でもがくけど抜け出すことも出来ない。

「……順」

順の肩に頭を預けて。
耳元で聞こえる呼吸が確実に寝息であることにため息をつく。

「こんな硬い床で眠らせるつもり?」

言っても聞こえないと分かっているけど、苦情を述べて。

「だいたい、毛布も何も無しで風邪ひくでしょう」

がっちり抱き締められているから、腕を出すことも出来ない。
その腕から逃れるのは断念して。

「……携帯だけでも持っておけば良かった」

寝顔をたまに撮ってるのはさすがに順には内緒。
じゃないと、自分も撮りたいなんて言い出しそうだから。
すーすー、とリズミカルと寝息と雨の音と心地よい体温と。

「私の休日、お昼寝でつぶす気?」

聞きながら………うん、それでも唇が笑ってしまっているのをこの人に見られなくて良かった。
今度は鼻の頭にキスをして、目を瞑る。


「……こんな休日も悪くないわね」















『寝顔も可愛い』なんて口に出しては言えそうにもないけど




END
(12/06/25)

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