【3】
□あまりの頭の痛さに自分の眼球をくり抜いて投げ捨てたくなる時ないですか?
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【あまりの頭の痛さに自分の眼球をくり抜いて投げ捨てたくなる時ないですか?】
「前に読んだミステリーで…」
「んー?」
「人間の眼球の食感はナタデココみたい、って書いてあったけど本当かしら?」
「うん、やっぱ病院行こうか、染谷」
あたしの膝の上に頭を置いて、こめかみを押さえてる人の顔を見下ろして。
そういうグロいことを言い出すのは普通ならあたしか綾那のはず。
て言うかさ、それミステリーじゃないよね?
どう聞いてもホラーかスプラッタかクッキングの本だよね。
「薬、飲んだんでしょ?」
低めに囁いたのは、頭痛に苦しめられてるハニーを気遣って。
返事は無し。
だけど、手の平で目元を覆ったまま小さく頷くから安心して。
「飲んでないならナタデココ入りのヨーグルトドリンク買って来てあげようと思ってた」
嫌そうに喉元が動くのを見つめて、それでも苦情の声は聞こえない。
ああ、弱ってる、弱ってる。
柔らかい髪の毛を撫でてあげるとやっと閉じたままだった瞳が開く。
「病院行くなら今すぐにでも肩に担いで行くけど?」
「……寝てれば治まるわよ」
「なら、いいけど」
―寝心地のいい枕付きだし…
小さく小さく呟いた言葉に満足する。
この人、絶好調の時ならこんなこと言ってくれないからね。
時折、頭を痛ませる恋人の(こう言うとなんか違う意味みたいだ)心配はもちろんします。
今すぐ、頭切り裂いて脳みそ取り出して取り替えてあげたいくらい。
(せっかく提案したのにすっごい嫌そうな顔されたけど、あたしの脳みそになんか不満でもあるんでしょうか?)
愛する人達の為になら汁のみならず、脳みそですら差し出すと言っているのに!
「……順」
「はい」
「…頭、撫でて」
「はいはい」
ああ、甘えてる、甘えてる。
弱った染谷も体調の悪い染谷もお断りだけど、こんな風に甘えてくれるなら悪くない。
……もちろん、絶好調の時に甘えてくれれば何の問題も無いんだけどね。
「……あまりの頭の痛さに自分の眼球をくり抜いて投げ捨てたくなる時ってない?」
「別の意味で痛いね、それ」
頬の傷に手の平で触れて、閉じた瞼の上を指先でなぞる。
長い睫を指先で撫でて、そっとそっと…その瞳を撫でてあげる。
視力を失った瞳は色んな意味で彼女を苦しめるから。
だけど、うちの彼女はくり抜いて投げ捨てても頭の痛みも他の問題も何もかも消えないって知ってるからそうしない。
もう一度、頬の傷をなぞってその先の瞳を撫でてあげる。
「まあ、もし眼球くり抜いたら…」
体を曲げて頬にキスするのもこの体勢じゃ一苦労。
「勿体ないからヨーグルトに入れてあたしが食べてあげる」
ああ、嫌そう、嫌そう。
露骨に顰められた顔に笑うと引き寄せられるから、それに応えて。
唇に感じた柔らかい感触と唇を割って入ってくる弾力のある感触を味わう。
ああ、けど、気持ち悪い、って、まあ、確かに、そうは、あたしも、思うよ?だけど……
「…あんたの一部ならどこでも美味しそうだよね」
黙れ、って。
今度は髪に指を絡めて強く引っ張るから、頭痛は大分良くなったみたい。
染谷の言葉に同意は出来ないけど、こうは思うよ。
「あまりの愛しさに心臓取り出して渡してあげたい時ならありますよ」
『いらない』って突き返されるのは丸分かりだけどね。
「視神経ついてきちゃったわ…」
「具体的に想像しないの」
END
(12/09/03)