【3】

□Touch A Touch A Touch A Touch Me
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【Touch A Touch A Touch A Touch Me】




―指先が触れるだけでいい

…そう思っていたのに、最近ではそれが変わりつつある。






指先が触れるだけでいい。
ただ抱き締めるだけでいい。
そこにあなたがいてすぐに触れられればそれでいい。

「……そうはいかないから大変だよね」

ベッドの下、何度片づけても何度片づけても増え続ける黴のようなコレクションの一番上にあった本を手にとって。
DVDもたくさんあるけど、さすがに音声付きのものは見たくない。
(一度、さり気なく棚に置いてあったから間違えて見て夕歩と慌てたことがある。某有名映画達のタイトルをもじるのは止めて欲しい)

「うー……」

見たいかと言われれば好奇心はある。
だけど、正直な話見てしまった後に色んなものが萎えてしまいそうで。
………まあ、何をしようとしているのか改めて説明する程でもないけど。
久我さんのコレクションを借りて少し……その……勉強しようかな……とか。



キスは唇を押し付けるだけじゃない……って、夕歩は一体どこで知ったのか。
あんな風に(具体的になんて言えない!)触れあうのをどこで知ったのか。
それでも、心地良すぎる感触には確かに中毒性がある。

―もっと…

そう願うと共に考えてしまう。

―…彼女はこれで満足してるのかな?

触れれば幸せそうに笑ってくれるから、それでいいとは思ってる。
そういう行為は彼女の為に、と言うよりも自分の為に。
裸で抱き合うだけで満足なら、それで良かったんだけど。

あの甘い甘い吐息を聞く為にはもっと、どうすればいいのか。
耳に残る声はまるで人魚の歌声みたいに私を誘惑して、海の底まで引きずり込む。

……引きずり込まれた結果がこれだよ。
決心を決めてパラパラと久我さんのコレクションを読んでみて。
うわぁ…!
開いた口を慌てて閉めて、今度は深く深く息を吐き出しながら1ページずつゆっくりと読んでいく。
うわぁ…………。
また開いた口はもう閉じる事を放棄して。
こんな事を夕歩に……って、無理!絶対に無理だから!
むしろ、こういのが普通の行為なの?

「……ゆーほ、こんなに声出さないし」

うん、元々大声を出すような人でも無いんだけど。
こんな台詞言われても困るけど。
いつも控えめに名前を呼んでくれるあの声だけで私には十分すぎる。

「………………」

それとも私のやり方が良くないのか。
……そもそも、これで本当に勉強になるの?
キスの仕方も知らなかったのに、それより先に進むのは早すぎたのかも知れない。



「ただいま」
「………っ!」

ばさっ!
夕歩が帰って来て、慌てて読んでいた本をベッドの下に投げ入れる。

「お、おかえり!」
「……恵ちゃん?」

首をかしげて………ああ!
投げ入れたはずがベッドの下からはみ出したそれを拾うからあたふたと手を振る。

「違うの、ゆーほ!」
「……恵ちゃん、これ読んでたの?」
「よ!読ん…でたけど…」

ここで自首してしまう辺り、私の弱い所。
パラパラとページを捲って目を丸くした後に私の顔をマジマジと見つめるから俯いて視線を逸らす。
うぅ……。

「…恵ちゃん」
「………はい」
「…こういうの好きなの?」
「す、好きとかじゃなくて……!」

俯いていた顔を上げれは薄く笑ってるから、頬から足先まで羞恥で熱くなる。
ち、ちがっ!私はただ………!!

「……参考になればと思って」

きっと今、私の頭からは湯気が出ててもおかしくない。
物理的にあり得なくても心情的にはそのレベルまで行ってる。

「参考…」

また、パラパラといかがわしい本を(しかも今度はわりとしっかりと!)と見始めるから暴れ出したい衝動にかられる。
夕歩がそんなの見ちゃ駄目だよ!

「こんなのは私、好きじゃないけど」

パタリ、と本を閉じて。
床に本を置いたのと入れ違いに夕歩が手にとったのは私の手。

「……恵ちゃんに触れられるだけで嬉しいし」

ぺたり、と。
私の手の平に触れさせたのは夕歩の頬。
すべすべの肌を指先で撫でて、まっすぐに見つめてくる瞳を見つめ返す。

「…ほんとに?」
「うん、恵ちゃんはそれだけじゃ嫌?」
「い、嫌なはずないよ!だけど、ゆーほが満足してないんじゃないかと思って…」
「……私?」

唇にまた小さく笑みを浮かべて。
呆れられるんじゃないか、って心配は握られたままの手の平が、頬に触れた手に重なる夕歩の手が否定してくれる。

「私はただ恵ちゃんに触られてるだけで嬉しいよ。それに………」

そこで言葉を切って夕歩にしては珍しく恥ずかしそうに頬を染めるから……。

「……ゆーほ?」
「…恵ちゃんのやり方が好き…だよ」

………もうこれ以上、沸騰できないくらいに真っ赤にさせられる。








指先が触れるだけでもいい。
ただ、大好きなあなたがそこに居ればそれでいい。


…だけど、あなたとならそのもう少し先が体験してみたくなる。
























「…触ってもいいですか?」
「………喜んで」




END
(12/09/05)

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