【3】

□Call me baby Call me Maybe
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【Call me baby Call me Maybe】






深夜の電話は苦手なの






「……なに?」
『あ、寝てた?』

暗闇の中、携帯の光すら眩しくて目を細めてディスプレイの時間を確認して、寝ていてもおかしくない時間なのを確かめる。

「………なに?」
『うわー、染谷さん冷たー』

携帯越しの順の声が囁くような小声なのは、きっと綾那を起こさないように。
私だってルームメイトに気を使って囁くように言葉を発する。

「…だから、なに?」
『うん、寝てたのは分かったからそんな怒んないでよ』

つい、さっき……と呼ぶには日付は越えてしまっているけど、一緒に居た相手。
明日の朝になればまた『おはよう』と言える距離にいる人からの深夜の電話は意味がわからなくて。

「こんな時間に起こすんだから、緊急の用事なんでしょうね?」
『もちろん、あんたの声が聞きたくなる発作が出て命の危機なの、あたし』
「そういう時は110にかけて」
『警察呼んでどうすんの?特効薬はココにあるのに』
「深夜のストーカーは逮捕してもらえないのかしら?」
『ひどっ!』

そう言いながらくすくす笑ってるから、その音が耳元で響いて落ち着かない気分になる。
…深夜の電話は苦手なの。
どうやら深夜のストーカーはすぐには電話を終わってはくれなさそうだから、ルームメイトを起こさないようにそっとベッドから、そして部屋から抜け出す。

『だってさ、どうしてもどうしてもあんたの声が聞きたくなんだもん』

明かりの消えた廊下に響くのは自分の足音と順の声だけで。
ひんやりした空気に上着を着てくれば良かった、と今更後悔する。

「明日になれば聞けるでしょう。もう、今日だけど」
『ん、それは分かってる』

囁くようだった順の声がはっきりしてて。
だけど、そう淋しそうに言うから深く深くため息を吐き出す。

『そんなため息つかないでよ』

…電話の利点は自分の表情を相手に見られずにすむ事。
薄暗い廊下を歩いて歩いて、ドアを開けて中庭に出て辺りを見回す。

「ため息つきたくもなるわよ」

外に出てしまうと本格的に寒くて、思わず開いた手で自分の体を抱き締める。
歩き出した脚に迷いが無いのは、私にだって行動パターンを読むくらい出来るようになって来たから。

『……まあ、じゃあ、そろそろ切りますよ』
「そうね。とにかく、もうこんな深夜の電話は止めて」

見つけた背中にまたにやけた頬を慌てて打ち消して。

『……りょーかい』
「それと……」

中庭のベンチに座った後ろ姿に近付きながら、そこまで言って通話を終了する。


「…寒いからそのパーカー半分貸して」












…深夜の電話は苦手なの。
すぐに逢える相手が隣にいない事に気付いて……こんな馬鹿な行動に出てしまうから。



















「…どうせなら中身も貸しましょうか?」
「パーカーだけでいいわよ」




END
(12/10/11)

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