【3】

□Flavor Coffee
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【Flavor Coffee】






― 喩えるなら……ヘーゼルナッツフレーバーのコーヒー?






「…甘そう」
「お前、飲んだことないな」
「あるよ」

玲の視線はまっすぐ前方に。
その癖、落ち着き無く部屋の中を見回してるのが下から見上げてるとよく分かる。
シャープな顎のラインを目でなぞって、時折こちらを見る目を捕まえてもすぐ逃げられる。

「脚しびれない?」
「…正直、しびれてる」
「おりようか?」
「いい」

少しだけ頭を浮かして重さのかかる場所を移動してあげる。
誰かに枕にされた経験は無いけど、枕にした経験はあるからその点ではコツは心得てる。
…玲の太股は意外に寝心地がいい。

「そっちは?」
「玲を喩えるなら?低反発枕とか」
「硬いか柔らかいのかよくわかんねーし、それ今の状態だから思いついただけだろ。あと、あんま転がんな、見える」
「……エッチ」
「止めろ、責めるならその体勢を今すぐ止めろ」
「おりなくていい、って言った癖に」

仕方なく体を起こして、そのまま玲の肩を背もたれ代わりに座りなおす。
その体勢になって3秒間を置いてなぜか軽く頭突きされたから、不満を訴えるために首を振る。

「………お前は真っ正面から甘えてくるとか無いのか?」
「ここだと駄目?」
「そこじゃ抱き締められないだろうが」

玲の言葉は呆れるぐらい真っ直ぐで、それに反抗したくなる私は……たぶん真っ直ぐじゃないんだと思う。

「やだ」
「あーあー、そうですか。…ほんっと、猫みたいだなお前」
「さっきはコーヒーに喩えた癖に」
「ヘーゼルナッツフレーバー風に茶色と黒が混じった猫、外見に騙されて抱きあげでもしようもんなら引っかかれまくって傷だらけにしてくるようなヤツ」
「玲の中で私ってそうなの?」

玲に付いて行ったのはエサをやると言われたからじゃない。
私が追いかけたのはエサじゃなくて刃友、その果てに……なぜか捕まえたのはこの人なんだから……。

「玲は美味しいエサ持ってたんだよ」

…ん、ちょっと違う。

「玲が美味しいエサだったんだよ」
「……喜んでいいのか?それ」

答えは返さずに唇だけで笑って立ち上がる。

― だって、玲見てると美味しそうだと思うから

そう言えば言ったで照れて頬を真っ赤にした後、気まずそうな顔をするのは玲の方なのに。
モテるから、どうせこんな事に馴れてるでしょ?
……そんな風に思ってたのに。

「……その偶に思い出し笑いする癖、止めろ」
「だって」

抱きついただけであんなに体を硬くするとは思わなかったから。
あんなに辿々しいキスするとは思わなかったから。

「玲が可愛いから」

……あのね、別に私だってこんな事に慣れてるわけじゃないの。
だけど、誰さんが甘いから。

「……………さっきのに付け加える」

なのにキスした後はそれが義務みたいに真っ直ぐ真っ直ぐ私の眼を見つめてくるから。
たぶん、そう言うところが私が玲に付いて行った理由。

「ついでに砂糖入りだ」
「じゃあ、やっぱり甘いんだ?」
「ちゃんと溶けてなくてカップの下に溜まってる感じ」

ひどい喩えに顔を顰めて。
…私がビターなのには理由はあるんだよ。

「それは誰かさんのかき混ぜ方が下手だからだよ」

その理由を甘い甘い誰かさんがわかってないだけで。

「……あたしのせいかよ?」

















…それでもいい、って甘やかしてくれるからだよ



END
(12/10/17)

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