【4】

□彼女の恋人
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彼女の恋人は私の友達






「…雨だ」
「あ?」

珍しく早い時間に帰ってきた同室者がぽつりと呟くから。
窓の外を見上げて泣き出した空を確認する。

「雨だよ、綾那、雨」
「っさい!見ればわかる!」

まるで人の刃友みたいに、ちっちゃな子供のように繰り返すから苛ついて手短な雑誌を投げつける。
それを手馴れたもんで器用に受けとめて、それでもこいつの興味はまだ窓の外の雨のまま。

「…そんなに雨が珍しい?」
「いやー、じゃなくて。染谷が今日は部活して帰ってくるって言ってたから」

脈略の無い返事に思わず順の顔を見て。
こっちを見ずにまだ窓の外を見上げたまま、その唇が綻んでいるから、その目元が愛しそうに細められているから苛立ちがまた大きくなる。

「だから?」
「傘無いかも、濡れ濡れで帰ってきたら困る、あたしが。色んな部分が透けてたりしたらあたしが困る」
「透けないだろ、制服なんだから」
「そういう問題?」
「あんたの方こそ、そういう問題か?」

どうしてなんだろう?
どうしてこいつなんだろう?
何度も何度も問い掛けた問いに答えはなくて。

「染谷が濡れたらサイキョーだよ」
「嫌らしい言い方すんな」
「そういうあんたの思考の方がエロい」

星の数ほどいる人の中で、どうせならもっと別の人が良かった。
それこそ、こいつの恋人でも、こいつの刃友でも、もっともっと良い人は別にいるはずなのに。

「よし、やっぱ迎えに行こう!」
「ゆかりなら部室に置き傘置いてると思うけど」
「その時はその時。お迎えに来てくれた、って事が染谷にとってのプラス点になるんです」
「あんたの思いこみだろ、それ」

苛立って攻撃して、それでもこいつの目元も唇も愛しそうに笑ってる。
ここにはいない恋人を想って笑ってる。

「うん、かもね。絶対に素直に『ありがとう』って言わないと思う。きっと『呼んでない』とか言われんだろうね」

― じゃあ、行かなければいい。

そう口にしてもどうせ行くんだろうから、口にはしない。

「久我順の戦いはまだまだ終わらないんです」
「勝手に戦って勝手に死滅してろ、滅菌されろ」
「何でそんなバイキンみたいな言い方するかなー」

順が手にとったのは一本の傘で。
二人で一つの傘に入ってる姿を想像して、本気で死滅すればいいと思った。
恋に落ちた事を心から後悔する恋もある。
好きになった相手を呪う恋愛もある。
好きになった自分を呪う恋愛もある。
奪おう、と言う気にもなれない。
むしろ、彼女にこいつは似合わない、ふさわしくない。

「まあ、うざがられたとしてもさ」

ドアノブに手を掛けて振り返ると傘を一振り。

「それでも染谷は可愛いんだよね」
「………あんた、マゾヒストだからな」
「うん、染谷にだけね」

『友達』で始まった私達は『友達』の枠から出ることは無い。
……何時からこいつとゆかりは私を置いてそこから出て行ってしまったのだろう。

「んじゃ、行ってきまーす」

閉まったドアを見届けて、あいつがしていたみたいに窓の外の雨を見上げてみる。



「…そのまま永遠に帰ってくんな」











これ以上、私に苦しい思いをさせないでくれ。























何であんたを好きになったんだろう
…あんたの隣になんていたくもないのに



END
(12/12/01)
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