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□食べものシリーズ
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【ホットサンド】




Question
あなたの得意料理は?

Answer
ホットサンド





「………それ、料理って言う?」
「なに?あんただって、あたしの作るホットサンド美味しいって言うじゃん」
「美味しいけど……あれ、チーズとスパム挟んで焼いてるだけじゃん」
「焼き加減が絶妙だと君には分からないのか?」
「あー…うん、そうっすね」

あ、反論諦めやがった。
そらね、誰かさんは料理得意だよ。
あんたの作る料理はそこら辺の店のより、よっぽど美味しいし。

「あのさ、ご飯作ってもらったら後片付けくらいするもんだよ」
「……今更、あたしにそれを望む?」
「だね」

こいつの部屋でこいつに料理を作ってもらうのなんて日常茶飯事。
散らかり放題のあたしの部屋と違って、きっちりと掃除の行き届いた部屋は居心地がいい。

「あんた、いいお嫁さんになるよ」
「は?いきなり、なに?」
「料理は上手いし、家事全般得意だし。あと、それなりに可愛いし」

意外に母親の望む『お嫁さん』にこいつはぴったり当て嵌まるんじゃないかな?

「んな、一昔前のおっさんみたいなこと言うなよ。あと、呑んでばっかじゃないでテーブルくらい拭け」

投げ付けられたふきんをキャッチしてジントニックのグラスを持った反対の手でごしごしテーブルを拭く。

「あたしが男だったら、あんた嫁にしてんのに」
「……また、それを言う」

片付けを終え、濡れた両手を拭きながら言う顔はこいつにしては珍しく機嫌の悪い顔。

「じゃあ、あんたが男だったら結婚してた」
「私が男なら、あんたとっくの昔に襲われてるよ」

ため息まじりに言った顔はもう何時もの顔。
困ったみたいな、ちょっと情けない顔。

「あのねー、その男は全部獣みたいな言い方止めなさい。そりゃね、男嫌いな君には分からないかも知れないけど」
「  」

小さく優しくあたしの名前を呼ぶ声。

「なんか、あった?」

苦笑い、だけど優しい声。

「…別に」

対してあたしはふて腐れた子供みたいな声になる。

「なら、いいけど。なんか、挑発したがるから」

見透かされてるのが心底悔しいのに、何故か心のどこかでほっとした。
あー、こいつらしいなー、って。

「私は男嫌いじゃないよ。女が好きなだけ」
「ほらね」

バレてるなら、とことん挑発してやれ。

「ほらね、ってなに?」
「そこはさ、あんたがあたしを好きなのをアピールするとこじゃないかなー?」
「アピールなら……」
「されてるねー」

あ、グラス空になった。
おかわりは……今のこいつは作ってくれないな。
何十回と、下手すりゃ百を越えてるかも知れない愛の言葉。
最初の告白はもう何年前だっけ?
一緒にいる時間が長すぎて、はっきり記憶してないや。
だけど、あの時のこいつのことははっきり覚えてる。
あんな泣き出しそうな……必死な顔したこいつを見たはあの時だけだから。

「ねー……」

何時ものこいつなら、空になったグラスにすぐ気づく。
こんな強張った顔、あたしには見せない。
…必死さ加減ではあたしも一緒か。

「今ならあたし、YESって言うかもよ」

気づいたのは、本当に最近。
告白なんて日常になりすぎて気づかなかった。
満員電車の吊り革にぶら下がりながら、グロいB級映画を観ながら、野良猫を追い掛けながら、ねぎ豚タン塩を焼きながら。
何度も何度もされた告白。
フツーに考えれば『今、告るか?』って時ばかり。
だけど、今ならオチるかもって雰囲気の時にはこいつは絶対にその言葉は口にしない。
……今みたいに。

「…冗談キツイっすよ」
「押し倒してキスされても今なら抵抗しないけど?」
「しませんって」
「じゃあ、してよ」

強張ってた顔が急に緩む。

「そんくらいで酔った?それとも発情してんの?」
「酔ってないし、あたしは誰かれ構わず発情なんてしない」

あと、あんたの冗談にごまかされる気は無い。

『臆病者』

吐き捨てたくなる、傷つけたくなる。

「ベッドならすぐそこにあるし」
「あんたの言い方だと、私とそーいうことしたいみたいに聞こえるんだけど?」
「……あんたが男だったらね」

そーだよ、そう言う代わりに呟いた言葉はこいつを笑わせる。
顔全体で笑うあたしのお気に入りの表情。

「それはもーいいって」







『臆病者』
それは一体、誰に向けた言葉だったんだか?







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