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□久我順はかくも語り
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入学してからすぐ綾那達はどんどん星を奪っていき、あっという間にランクアップしていった。
あたし達は夕歩の体調とかの事もあって、綾那達には置いて行かれる形になった。
それは綾那達がBランクに上がってもうすぐAランクだって頃だった。
綾那ははっきり言って有頂天になってた。なんせ今まで無敗だしね。

「あんた、何時か痛い目にあうよ」

そんな姿がさすがに目に余るものがあってあたしはある日の夜、綾那に言ってしまった。
綾那はそんなあたしに馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

「そんな心配は必要無い。あたしとゆかりは無敵なんだから」

自信過剰ともとれる言葉だけど今の綾那達にはそう言ってのけれるだけの実績があった。

「あたしはあんたの心配してるの」

染谷だってこんな綾那を心配してるの知ってたしね。
それでも綾那は不適に笑うといつもの口癖を言う。

― 本気になれば空に浮かんでる星だって奪ってみせる。

この天然虎め、よくそんなセリフ恥ずかしげも無くはけるよね。しかも、冗談とかじゃなくて本気で言えるあたり尊敬に値するよ。
この時の綾那はまさに絶好調だったんだよね、星奪りも恋も。
毎日のように時間潰す場所探し回るあたしの身にもなってよ。夕歩の部屋にもそうそうずっといるわけにもいかないんだから。
しかも、部屋に帰れば首にキスマークつけて上機嫌で下手な鼻歌とか歌ってんだから。
そりゃ、若いから欲望を抑えられないのは分かるけどあたしの気持ちも考えろよ!

…だから、あたしは綾那と染谷が離婚……間違えた、刃友を解消した時にも『やっぱりな』って思ってしまった。
その時の綾那のへこみかたは凄かった。うん、でもそれはそうだ。あたしだって夕歩の顔に傷なんて付けようもんなら未来永劫立ち直れない。
それでもさ、染谷はあんたを責めてなかったよ?いつでも自分の事は二の次であんたの心配ばっかりしてさ。
……見てて辛くなった。染谷は本当にあんたの事好きだよなー、って。
綾那が夜寝てるときにうなされる回数が増えていったのはその時くらいからだった。入学してすぐくらいからそういう事は何度かあったんだ。
綾那のうなされる声で目を覚ますこと。一度、見るに見かねて起こしてあげたことがある。正直、その時の綾那の瞳は忘れられない物があった。綾那は必要最低限の時しか(お風呂とか寝るときとか)眼鏡を外さないからルームメイトのあたしでも裸眼の綾那を見る事は少なかった。
眼鏡ごしじゃない瞳は彷徨うことなく真っ直ぐにあたしの瞳を見据えた。夜の暗闇を移した瞳はどこまで暗く見えた。
…うん、たぶんあいつの眼鏡の事に気づいたのはその時だったんだと思う。
いや、違うか。その時には気づく余裕なんて無かった。ただ、心の奥底が冷えていくような感触がした。綾那が全然知らない人みたいに見えて。
気づいたのは後からジワジワとだった。何となく、『あれ?』って感じで。
あたしは余計な事は聞かないよ。もちろん、あんたが喋りたくなったら聞くけどさ。



…ごめん、何だか話しが暗くなってきちゃったから元に戻そう。
えぇっと、綾那と染谷の離婚についてだったね。
あたしは余計なことに二人の離婚話に首を突っ込んでしまった。
綾那はあの状態だから、言っても無駄だって分かってたから直接染谷に話しに行った。

― あんた達が別れるのはおかしい。って。

今考えればさ、アレはチャンスだったんだよね。だってさ、別れてすぐ傷心の染谷を慰めてその心をゲットするって成功率高そうじゃない?
なのに、あたしはそうせずに二人によりを戻せって言いに行ってしまった。
そんなあんた達見たくないから、って。染谷が綾那を大事な痛いほどわかるから。って。
染谷は包帯を巻いてない方の目であたしをにらみつけた。

「…あなたには関係ないわ」
「そう言われるとは思ったんだよ」

あたしは苦笑いを浮かべて頬を掻く。確かにあたしは口出しなんて出来る立場じゃないんだ。だけどさ、その言い方は無いよ、染谷。
この話しを夕歩に後でした時、夕歩も少しだけ困ったような顔をした。

「…それはゆかりの言う通りじゃないの?ゆかりと綾那の問題だし」
「そうだけどさー」

あたしは夕歩の部屋に寝転がり天井を見上げる。今日は増田ちゃんはいないから部屋には二人きり。

「夕歩はあの二人が別れてなんともないの?」
「それは確かに複雑だけど…」
「でしょ?」

うん、あたしはこの時の夕歩の言葉をあっさりとスルーしてしまった。その言葉の深い意味なんて考えもしなかった。
夕歩はこの時ちゃんと言ってたんだよね。『複雑』って。
普通さ、友達同士が別れたら『心配だ』とか『悲しい』とかさマイナスの感情しか出てこないよね?
『複雑』って事は少なからず夕歩の中に喜ぶ心があったからなんじゃないかな?
……なんて、全てを知った今となってはどうだって理由をつけられるよね?




  
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