突発的大人パラレル

□Fighter/Big Girls Don't Cry
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知ってて欲しいんだけど。
んー、いや、分かってて欲しい?

今のあたしの状況は彼女に全く関係無い、って。
もう子供の頃のままのあたしじゃない、って。


あたしだって『大人』になってるんですよ。






左左左左左……って、これじゃまるで下手くそなツーステップみたい。
もうね、『女の子』って呼ばれる年はとっくの昔に過ぎてしまったから。
こんな馬鹿みたいな行動を人前でやるにはちょっと痛すぎる。

「…………あたし、何で染谷と手繋いでんの?」
「誰かさんがいきなり道の真ん中で立ち止まるから迷惑にならないように引っ張ってあげたんでしょ」

言って離れた手を追いかけて。
その腕の先、上の方にある顔を見つめる。

「…ハーイ、染谷」
「しっかりして」

ひらひら手を振れば、なぜかムッとした顔をされました。
短く言って、怒った声でそう言って、なぜか立ち止まるから一緒に立ち止まる。

「染谷、通る人の邪魔になるよ」
「そんなに気になるなら追いかけたら?」
「うん、ちょっとそっち側に避けようか」
「聞いてるの?」

染谷の怒った声ってさ、何でか分かんないけどすんごいセクシー。
抱いてる時にこの声で抗議でもされようもんなら、マジで速効イケるってくらいに。
口に出して言ったら『変わった性癖ね』って呆れられたけど。

「夕歩たち待ってるよ」
「待たせておけばいいわ」
「料理冷めたら美味しく食べれないじゃん」
「エプロン姿の綾那なら夕歩が美味しく食べるから問題ないわよ」
「何だ、染谷だって夕歩にそれ聞いてんじゃん。あの二人ほんとマジでバカップルだよね」

自分の恋人のエプロン姿が美味しそうだ、とかナチュラルに言ってしまうくらいには姫も成長してしまったんですね…。
それ聞いた瞬間に綾那の裸エプロンとか想像してしまって、とことん萎えたとかそんな事は無いけど。

「だけど、順…」
「言わなかったっけ?あの人、荷物すら自分で取りに来なかったって」

あの時も神門さんは同じような気まずくて仕方ないって顔をしてた。

−変なことに巻き込んですいません。

あたしが謝る理由も分かんなくて。
ただ、『傷付いた』ってそれだけを言いたかったのにもう携帯の番号さえ変えられてた。

「今はただの赤の他人なんすよ」

ここまで何も無かったフリをされるとは逆に感心する。
さすがですね、おねえたま!……なんて言えばさすがに気にいらない、って顔はするかも知れないけど。
あの人にはきっと『未練』とか『後悔』とかそんな気持ち悪いもん無いんだろうね。

「…そう」

くるり、と。
回れ右をするから首をかしげて、袋を押し付けられたから反射的に受けとる。

「今日は行けない、って綾那達に言っておいて」
「は?」

足早に今歩いて来たばかりの道を逆走して行くから慌てて呼び止める。

「ちょっ!染谷?」

するり、と掴もうとした手の中を抜け出して行ってしまうから。
あたしには追いかける理由が無いから。
きっとあたしはここで追いかけちゃ駄目なんだろうから。

「……夕歩が残念がるじゃん」

染谷と反対の道へとあたしは歩き出した。










…そろそろ『大人』にならないとね。
何時までも大きな『女の子』のままじゃいられないから。

だけど、知っててよ、分かっててよ。
これはあたしの問題だから誰にも関係ない。


『大人』は泣かないから。
だから、あたしはさっさと『大人』になるんです。

 
 
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