突発的大人パラレル

□Big Girls Don't Cry
2ページ/4ページ


―夕歩たちがご飯一緒に食べよーって

その連絡は留守電に入っていたから、その声の主には折り返さずに招待主に直接連絡した。

「何で順伝いに言うの?」
『なんとなく…かな?そっちの方がゆかり、来てくれそうだから』
「…どういう意味?」
『だから、なんとなく、だよ』

何か悟られてるんじゃないか、そう感じながら私からは口に出さない。
だから、夕歩もそれ以上は何も言わないけど。
きっと今のこの状態がバレたらそれはそれはあのお姫様は腹をたてることだろう。
(『それならちゃんと付き合って』なんて言いそう)
違うの、今の私たちにはこのくらいがいいの。
そう言ってもきっとあの子は納得はしないだろう。
束縛したくないの。
ずっと縛られっぱなしのあの人をこれ以上、雁字搦めにしたいとは思えないの。




「どっちが荷物持つかジャンケンしよーよ」

また子供みたいな事を言い出す……と、小さくため息をついて。
だけど、最初に絶対グーを出す癖を知ってるから利用させてもらう。

「げっ、また負けた」
「弱いのに何で勝負を挑むのよ」
「そりゃー、人間はみな人生と戦うFighterだからですよ」
「アギレラ?」
「別れた後、よく聞いて志気をあげてました」

会話の隅々に出てくるのは何時も同じ人。
その後にも『別れた』人は何人もいるはずなのに、この人の中ではいつも『別れた』相手はたった一人きり。
小さく歌を口ずさむと隣で笑って『染谷が歌うと怖っ…』なんて余計な一言。
部屋を出る前に『15分くらい余裕あるよ』なんてニヤニヤして。
色気の無い誘いが今の私達。
服もちゃんと脱がすに10分でことを終えるのが今の私達。

「染谷、歩くの早いって」

ついさっきの10分間を思い出していたから。

「…貴方、歩くの遅いのね」

順が隣にいない事に気付かなかった。
だけど、歩幅は合わせないし歩調も合わせない。

―恋人じゃないから

……なんて、友人でも普通は歩調くらい合わせる。
これが相手が夕歩なら、夕歩に合わせて歩いてる。
必要以上に意識しすぎて、隣に並んで歩くことすら出来ない。
認めたら?
もし、私がそれを認めて口に出したら?
いつの間にか隣に並んだ順を横目で見て、友人達の惚気話に複雑な心境になる。
羨ましいのか、嬉しいのか、妬ましいのか、安堵しているのか。

「まあ、あまり期待はしないでおくわ」
「その言……」

…唐突に。
まるでヒューズが落ちたみたいに言葉を切って立ち止まるから。

「順?」

硬直したまま、見つめる視線の先を追いかけて………反射的に立ち止まったままの順の腕を力いっぱい引っ張って歩き出していた。
それでも順の視線はあの人に向いたまま。
だって、この人はまだ縛られたままだから。

「……でしたね」

なのに、あの人はまるで順なんていないみたいに。
まるで、順のことなんて知らない人みたいに。
顔を顰める事も、眉を顰めることすらせずに通り過ぎて行った。
さすがにこれはひどすぎる。
だけど、それよりも何よりも……

「…もう他人なんでしたね、あたし達」

そんなこと、全く思っていないのに。
そう呟くこの人が哀れで、胸が締め付けられた…。
 
   
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ