A

□Paradise by the dashboard light
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仕事が手に付かなくて。
まだ終わらない仕事を珍しく放置したまま帰途についたのは朝の言い争いの所為。

「夕歩」

玄関のドアを開けてリビングに入った瞬間にしたアルコールの匂いに頭を抱えたくなってた。
テーブルに置きっぱなしのボトルがほぼ空なのを確認して実際に頭を抱えて、それでも早く帰って来たのは正解だった、と。
夕歩が一人でアルコールを飲む時は拗ねている時。

「夕歩」

寝室のドアを開けるとカーテンが揺れていて、不自然な体勢で寝ていた夕歩が起き上がるから。
眠そうに瞬く瞳に情けない事にまた今更、浮かんでくるのは『愛しい』なんて感情。

「…綾那と順は?」
「おかえりなさい、の前にそれなの?」
「綾那はね、ハスキーで。順はゴールデンレトリバーなんだよ」
「うん、酔ってるのね」

ベッドの上、夕歩の隣に腰掛けて眠たげな瞳をしている頬を撫でる。
拒絶されるかと思ったら、大人しく撫でられた後に私の手の上に手を重ねてくれるから心から安堵する。

「…私は何?」
「何が?」
「犬に例えるなら」

首をかしげて、今やっと私がここにいる事を認識したように瞳を開いて。

「『ゆかり』は『ゆかり』だよ。他の何にも例えられない」

そう言った後に『玲はシェパードかな…』なんて呟くから、つい笑みが漏れて。
それがばれて機嫌を損ねられるのは嫌だったから頬にキスする事で誤魔化す。

「祈さんは何だと思う?」
「……いいから黙って」

唇を塞ぐ事で酔った恋人を黙らせて。
そのままの勢いでベッドにゆっくりと倒れこむ。

「…朝はごめんなさい」
「……うん」
「私はただ……」
「うん、知ってる。私こそ、ごめんね」

謝罪のキスがさっきよりも長くなったのに満足して。
微笑む恋人にまた心蕩けさせられる。

「…おかりなさい」
「……ただいま」




















「……夕歩」
「なに?」
「………枕に私のでも夕歩のでも無い長い髪の毛がついてるのは何でかしら?」
「…ああ、たぶん綾那か順の」
「……………………はい?」
「綾那と順がさっきまでここにいたから」
「……私ちょっと順と綾那の所に行ってくるわね」
「ゆかり……、足のナイフは置いて行って」





END
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