A

□Marry You
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― We’re looking for something dumb to do









カツン、と言う音と共に飲み干されたPatronと。
投げ捨てられたショットグラスを横目に眺めて。
……『偶には馬鹿げたことをしましょう』なんて誘いは確かにその通りだった。




「祈さん」
「はい、無道さん。次」
「いや、さすがにもう無理ですから!」

笑顔のいい恋人は笑顔が素敵って意味でも勿論あるけど、この表情筋が壊れたみたいに笑ってる時はその笑顔はとても『いい』とは言えない。

「家飲み、って言うのも偶にはいいわね」
「外でこんな呑み方するから次の日に記憶とんでたりするんですよ」

カツン、とまた鳴った音と飛んだグラスを今度は空中でキャッチすれば大喜びの恋人は次から次にグラスを投げてくれるから。
私は俄か作りのチョコレート・ファイターみたいな目に合わされる。

「無道さん、もー呑まないのー?」
「呑みすぎてクラクラしてる所ですよ」

酒の強さはたぶんこの人に劣りはしないけど、生憎と私はこの人みたいに飲めば飲むほどご機嫌になるタイプの酔っ払いじゃない。
酔えば酔う程に艶っぽさの増す恋人は……うん、家で呑んだのは確かに正しいことだった。
逆に言えばこれが野放しになっている週末に気付いて背筋が寒くなる。
これが隣にいれば誘うのは当然の行為。

「……グラス無くなった」
「誰かさんがあっちこっちに投げるからですよ」

何個かは悲惨な悲鳴をあげてたから、この人が踏んで怪我をする前に片付けないといけない。

「グラスが無いならジョッキでいいわ」
「死にますよ、それ確実に死にますよ」

酔っ払いが部屋を駆け回り始まる前にグラスの死骸だけでも片付けようと立ち上がれば、ジーンズのベルトを掴まれて再びソファーに座らされる。
渡されたPatronのボトルを反射的に受け取れば手の平に酒がこぼれるから。
手の平に零れた酒を見つめて、たどり着くのはさっき考えたばかりの事。

「…じゃあ、グラスが無いなら無道さんでいい」

………この人が隣にいれば誘うのは当然の行為。
人の手の平に零れた酒を舌先で舐めるから、なんて言うか……もう!
貴方が望むならグラスにでも何にでもなりますよ!
むしろ、喜んでなりますよ!

― 今夜は馬鹿げたことをしても許されるなら

取って置きの馬鹿を口にしたくなる。
ああ、そうだよ。
グラス代わりになってれば、グラスだって酔っ払う。
馬鹿げた言葉はこの人の瞳の所為か、アルコールの所為か。
そんな事、どうでもいい。
明日、貴方が目が覚めて「離婚したい」とそう言われても構わない。





「……貴方と結婚したいんです」





人の唇をグラス代わりにして満足げな人はまた笑って。
言った言葉はただ一言。


「…無道さん、おかわり」







……貴方のことだから、もうボトルが空なのくらい知ってるんでしょう?



   

   
   
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