A

□姉の不在
2ページ/4ページ



「………似合わない」
「キグーだな、あたしも今おなじこと考えてた」

長すぎる足を持て余して、白い車に寄りかかっている人はだけど不機嫌な私とは対照的に笑いを堪えてて。
(悪かったな、どうせ似合わないですよ)

「槙さんの車なら槙さんの運転でいいじゃないんですか?」

槙さん愛車の白いハイブリッド車はどうしたって、この人には似合わない。
黒煙吐き出しながら爆走してるアメ車の方がよっぽどお似合いだ。

「あいつの時速20キロの運転で、このだっせー車で行きたいならドーぞ」
「さすがに20キロ以上は出てるし。柊さんに似合わないだけでこの車に害は無いです」
「って、なんであんたはナチュラルに後ろに乗ンだよ」
「この格好じゃ助手席狭いです」
「フざけんな、前乗れ。前」
「嫌ですよ」
「いいから、乗れ」

無理矢理、助手席に押し込まれて。
(お見送りをすると言っていた槙さんと祈さんをなんとか説得して部屋に置いて来て良かった。こんなの見たら祈さんが何をするか…!)
…誰かが運転する車の助手席に乗るのは久しぶりで。

「…柊さん、成人式なんて出たんですか?」
「ア?忘れた」

くわえ煙草に火をつけようとしてるから奪いとって握りつぶして。
(この車は確か禁煙)
帯がつぶれないように背中を伸ばしてるから、やっぱり後部座席に乗るんだった、って。
目の前のダッシュボードを眺めながら、憮然として考える。

「…来るとは思ってなかった」

小さく小さく口の中で呟いた言葉に何も返事がなかったのは、たぶん聞こえなかったから。
むしろ、『いるとは思ってなかった』が正解。

「この車、ホンキ出したらどんくらい出ると思う?」
「やめてください。それ、冗談じゃないでしょう。この前のお陰で夕歩、私のバイク見るたびに嫌そうな顔するんですから」
「ああ、あのちっこいオジョーさん」

そこで言葉を切って、くすりと嫌な笑い。

「アンタの年上シュミは昔からだな」
「…夕歩はそんなのじゃ無いですけど」

年上趣味、って確かに今まで付き合った相手は年上ばかりだけど。
だけど、それを話してないはずのこの人が知っているのは何故かと追求する気にもならない。
(恋人に会わせたのだって祈さんが最初のはずなのに)

「…柊さん」
「ア?」
「今、スピードを緩めもせずに通り過ぎたのは成人式の会場じゃなかったですか?」
「ン」
「『ン』じゃなくて止めてくださいよ」

何時の間にか、くわえて火をつけたのか自分のと同じ煙草の香り。
窓を開けてそれでも車を全く止める気配が無い人の袖を引いて。

「ショージキな話…」

袖を引いた手がまるで子供みたいに見えて慌てて外す。
だけど、柊さんはまるで気にしないまま。
前だけを見て、こっちなんて見ようともしない。
……何時ものように。

「あそこでギョーギ良く、クソくだんねー話し聞くのと酔いつぶれさてんのどっちがいい?」

ニヤリと笑う顔で私がどっちを答えても、この人の行動なんてもう決定している事がわかる。

「…柊さんが成人式に出なかったのは、とりあえず分かった」

槙さんに怒られても知らないから、なんて言葉は飲み込んで。
だって、そんなの私だって同じ身の上。





  
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ