【1】
□Kiss and Cake
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『…どうしても食べたいの』
そう言えば今からでも買いに行ってくれるだろうと言う自信はあった。
姫命令、なんて普段は使わないものを発動させるまでも無く順はいそいそと買い物に出かけてくれた。
罪悪感はもちろんあるけど……。
片道一時間、往復二時間。
……その間の時間、有効に使わせてもらうから
恵ちゃんと触れあうのはくすぐったくて柔らかくて……ほんわり、とした感じ。
ホットミルクを飲んだ時みたいに体の奥からじんわりと何かが広がっていく。
ただ触れてるだけで心地よい。
………綾那とのはそれとは違う。
「……綾那の体、温かい」
小さく小さく耳元で息と共に吐き出して。
「夕歩、いつもそう言う」
−二時間だけだから
ノックもせずにドアを開けて、そう言うと綾那はゲーム画面をから顔をあげて首をかしげてた。
−順、二時間帰ってこないから
自分がこんなに欲深かったんだ、と。
自分でも信じられないくらいに深いんだ、と。
それを思い知ったのは満たされてから。
「…寒いわけでもないのに」
寒いとは言えない気温、それでも綾那の体に触れていると温かいと思うのは何故?
「ね、綾那……まだ時間あるよ」
満たされているのに、ホットミルクみたいな温もりだけで私は満たされてるはずなのに。
別の温もりを求める理由は?
「時計を気にしながらで楽しい?」
−満たされてないんじゃない?
そう言われたのはどれくらいこれを繰り返してから?
−あるいは夕歩が底なしなのか
貪欲に綾那を求める理由は私が強欲なのか、それとも満たされていないから?
愛の言葉は求めずに行為ばかり強請る私はその両方なのかも知れない。
「…楽しくはないけど」
綾那の指が髪をかすめる。
想像してたよりもずっとずっと器用な綾那の指。
「シャワー浴びて来たら?」
ベッドから抜け出して服を着ながら言う背中を見つめて。
綾那は私がなぜこんな事をするのか理由を聞かない。
だから、私もなぜ綾那がこんな事をするのかの理由も聞けないまま。
無造作にゲームの電源を入れる綾那の背中を見つめて。
「シャワーも浴びるけど」
だけど、そうするのはなんだか気が進まなくて。
シャツだけを羽織ってベッドを抜け出し、綾那の前に立つ。
「…腕の中に入れて」
あからさまなため息の音。
だけど、綾那は大人しくゲームのコントローラーを持ったまま腕を広げてくれる。
「ありがとう」
腕の中におさまり、その背中にもたれかかる。
綾那の鼓動の音とゲームBGM。
「……綾那、あったかい」
頭の後ろで小さく笑った音が聞こえた。