【3】
□Singing In The Rain/Umbrella
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−大人しく
……うん、そうだった。
−大人しく私の差し出す傘に入ってればいいのに
ああ、この人怖っ!と思った瞬間。
それと同時に『ああ、同類だ』……なんて、ちょっと厚かましい?
デュエットの途中でアルトとソプラノが入れ替わるみたいな、あんな感じ。
あたしとおねえたまの濡れ場って。
あ、R指定かかってないから具体的な情事場面はカットでお願いします。
あれだよね、役者さんがヤッてない方が濃いぃぃぃい濡れ場を演じられるのは妄想がはたらくからで。
実際にヤッちゃってから演じると現実知っちゃってるから、凄い白けるんだって。
まあ……、あたし達のもそんな感じ?
手に入らない相手とだとイメージするだけで盛り上がり方が全く全然違うんだからさ。
「しーんぎんざれーん、しーんぎざれーん♪」
「発音めちゃくちゃね」
「舌の使い方が悪いらしいです。実技でご指導お願いします」
わざとらしく唇を突き出して、押し返されるのは分かってるのにね。
案の定、呆れたように押し返して。
おねえたまの『Singing In The Rain』は確かに綺麗な発音をしている。
雷がなるのは雨の時だけ。
じゃあ、万年土砂降りのあたし達はいつ雨上がりの虹が見られるんでしょうかねー?
だから、だよね、『虹』は手に入らない、って、ね。
だから、だよね、『 』は手に入らない、って、ね。
あたしも祈さんも2人とも大きな大きな傘を持っているのに。
刺し方が…(おっと違う)、差し方がわからない。
(いや、いっそ刺し方がわかった方がよっぽどいいのかも)
差し掛け方は知ってるのに。
誰かが濡れないようにする方法は知ってるのに。
自分が濡れないようにする方法は知らないんだよ。
どっちかと言うと『知ってるけどやらない』かな?
でっかいでっかい傘はきっと2人ででも入れるのにさ。
ただただ相手を濡らしたくない一心でびしょ濡れになりながら差し掛け続けてる。
……相手が望んでるか望んでないかは知らないけど。
「順」
「はい、なんなりと姫」
マイレインボーガールはその言葉に露骨に顔をしかめるから。
心の中で小さく小さく本音を漏らす。
−あんたは大人しくあたしの傘に入ってればいいんだよ
いえ、違うんです。
真似とかじゃなくて共感。
あ!それ、わかるわかる!
って、あのガールズトークのノリ。
だけどさ、全く同じなら大笑いだよね。
だってさ、きっとみんな、恋をしてるあらゆる人が思ってるんだから。
『自分のこれは人とは違って特別だ』って。
『そこら中に溢れてるありきたりなモノとは違う』って。
『愛』なんて今時電話一本で買えますけど?
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その安っぽい通販で買えそうなもんに縛られてるのは確かに事実なんだけど。
「姫」
「なに?」
「心から愛してますよ」
「…馬鹿」
まあね、手の甲には出来ても。
その唇には愛を示すことは出来ないから。
だから、もう一度言おう。
−あんたは大人しくあたしの傘に入ってればいいんだよ
あんたの嫌なもん、全部、全部きれいにあたしが受けとめてあげるから。
あんたが濡れる必要なんて無いんだよ。
……あんたはあたしが護るから。