【3】

□無道が耳栓を買いに行く話
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「ごめん…」

そう言ったのは……これからの行動に対する予告。

「…んんっ!」

パジャマの中に入れた手は焦らさずにそのまま胸の膨らみへ。
硬くなった突起を人差し指ではじくと抱き締めた背中が大きくはねるから。
暴れる人を押さえつけてるみたいに、抱き締めた腕の力を強める。
うなじに唇を押し付けて舌でなぞるとびくり、と背中がまた引きつる。

「じゅ…っ…!」
「……これ強姦?」
「な……」
「いやなら……しない」

首の下に入れた右腕で染谷の左肩を撫でて。
だけど、左手はパジャマの中、薄いお腹を指先で撫で続ける。

「………………」

言った言葉に嘘は無い。
染谷が嫌がるならしない。
だって、好きな人の嫌がることなんてしたくない。

「……嫌じゃないけど」
「『けど』?」

強く強く抱き締めた腕に額を押し付けてくる感触。
それがなんだか愛しくて。
前から抱き締めたいのに彼女は振り返ってくれないから、仕方なくまた首の後ろにキスを落とす。

「…声が心配?」
「………………」

返事は無かったけど。
かすかに頭が動いたのは頷いたから……だ、と思う。
ああ……もう…………。

「…ごめん、染谷」
「え?……ぃぁっ!」

暗闇の中、咄嗟に堪えたらしいその声はそれでもあたしの脳みそには大きく響いた。
その声も、下着の中の熱く濡れた感触も、あたしの腕を止めようと爪をたてる感触も。

「…………凄っ」

上ずった声は呷るためでもなんでもなく。
ただ呆然として漏れ出たもの。
染谷、こんなに濡れやすかった?
興奮……してんのかな?

「……入れるよ」

普段ならもっと時間をかけるけど。
もっと濡らすまでに時間がかかるけど。
指をゆっくり、ゆっくりと入れる時の抵抗はいつもより少なくて。
どれだけそこが濡れてるか思い知る。

「……っん……んぁ……」
「力、抜いてて」

また肩や背中が強張るから耳元で囁いて唇はそのまま耳元に。

「やっ…!順…っ!」
「…ん、声我慢して」

後ろから抱き締め、口を手の平で覆って耳元で囁く。
ぐちゅぐちゅ、と指を動かす度になる音と。
手の平の中で呻くようにあげられる声と。
かりかり、と腕を引っ掻かれる感触と。
……ああ、ほんと、これじゃ、マジ強姦。
背筋を走った変な感覚には目を瞑って気付かないふりをした。
そんな性癖、染谷に使う気無い。

「…手、噛んでいいから」
「っ…んっ!…ぅっ…!」

苦しそうに息を吐き出して。
声をかみ殺して。
それでも、そう言えば首を横にふって拒否するから。
…そんな自制心吹っ飛ばしてやりたくなる。
もっとあたしに縋っていいんだよ、って。

「……染谷」
「んぅぅっ!」

手の平の中、堪えきれずに出た声に満足して。
深く深く届く限り、染谷の奥深くを指先で柔らかく引っ掻いて。

「染谷……」

逃げる腰を足で押さえつけて。
指をばたつかせる度にはねる腰を押さえつけて。
ほら、もっと素直に楽しんで。
ラストにたどり着けなくても、あたしはあんたにあたしを堪能して欲しいから。

「んんっ……んー…んぅ…んぅっ……!」

…きつくなってきたらいつものように止めるから。
もう少しだけあんたの中にいさせてよ。
部屋に響く水音と染谷の呼吸音とくぐもった声と。
それ以上にうるさいあたし自身の荒い呼吸と。
それでも浅く短くなっていく呼吸が苦しそうで動きを止めるのはいつもと同じ流れ。

「……そろそろ止めようか?」

イけなくてもいい、とは言われても。
テクが無い、と言われてる気になる。
あたしだけが満足してればいいものじゃない。

「……………し、……から」
「え?」
「……もう…少し…だから」

『何が?』って、聞き返す前に動いたのは染谷の方。
反対を向いた所為で、あたしの方を向いた所為で指が抜けるけど。
首に回された腕と熱いキスに意識吹っ飛ばされて気づきもしない。

「…続き……」

―……して

口の中で囁かれたそれに意識どころか脳みそ、吹っ飛ばされる感触がした。
ある意味、昇天したのはあたしの方が先。

「あぁっ!……んんっ………!」

今度は手の平じゃなくて自分の唇で口を塞いで。
今度は腕じゃなくて背中に爪をたてられて。
今度もその震える肩や背中が愛しくてただ抱き締めて。

「……ん!んぅぅっ……!!」

…唇の中、一際大きい呻き声と指を締め付けてくる感触を幸福に満たされながらゆっくりと受けとめた。






「…はぁっ…………」

口から出た間の抜けた息に腕の中の彼女が気怠げに睨んでくるから、その髪を撫でて。
『お疲れさま』のキスを頬と額に一つずつ。

「……イけたんですね」
「…………たぶん」

口を開くのも億劫と言う風に力なく擦り寄ってくるから抱き締めてあげて。
目的は違うところにあったはずなのに。
いつもは目指してて途中で挫折するのに。
人生と言うのはこんなものなのかも。

「………最悪ね」
「え?なんで?イったのに?」
「そうじゃなくて……」

そこで口を閉じるから隙をついてキスして。
押し返されても、その腕に力なんて入ってないからそれすら幸せ。

「愛してますよ、染谷さん」

そんな睨まないでさ、今はとりあえずあたしの腕で寝てください。
明日の朝、目覚めてもあんたが隣にいる幸せをあたしに堪能させてよ。

「………もう」

わがまま聞いてくれたのはあんたの方でしょ?




































ああ………うん……なんて言うか……。
明日、朝一で耳栓を買いに行く!!!!!




END
(12/04/11)
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