【3】

□※注)これはラブソングではありません
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耳元で鳴り響いていたはずなのに




寝不足なのは本当で。
順にふっかけた喧嘩はいつもなら夕歩の前で振るような話題じゃない。
まあ、分からなくはないだろうけど夕歩がその手の話題に乗るのに抵抗がある。
…なんて私が言えた立場じゃないけど。

「ね、無道さん」
「はい」
「もっと希望ある?」
「……はい?」

悠々と組んだ手の上に顎をおいて。
笑う目元と口元はもう見慣れたもの。

「『恋人になりたい』って以外に」
「…………こっちはこっちで羞恥プレイですか?」
「ん、無道さんいきなり希望がマニアック」
「誰もそれを希望はしてないです」

厚かましい願いを口にしたのは自覚してるし。
それが叶うこともないだろう、とも思っている。
こうして視界に入れて、声をかけてもらうだけで満足……なんて、自分でもずいぶん消極的だとは思うけど。

「じゃあ、どんなプレイが希望?」
「だから、プレイとかじゃなくて」

隣にいた友人を思い返してみて(ルームメイトじゃない方)、浮かんだのはその友人から言われた言葉。

「……幸せな恋愛、とかですかね」

だから、私には、それは、無理な気が、してる。
今でも。
前からも。
これからも。

「それってカロリーゼロのアイスみたい」
「…ですね」
「もしくは流血のないスプラッタとか毛のない猫とか」
「なんかおかしくなってきてますけど」
「愛のないラブソングとか」
「それはラブソングとは呼びません」
「『好き』のない告白だったり」
「………………」

上手く話をそらせた、と思ってもまた戻される。
結局はこの人に敵うわけがない。
だから、言えた。
上手に断ってくれるだろう、そう思ったから。
それともこんな風にからかわれ続けるか。
だけど、それも悪くない……なんて、どれだけ溺れてるんだか。

「…静馬さんとまた普通に戻ったんだ」
「あ?ああ……まあ」
「次の頭突きは何時くらい?」
「もう無いですよ……たぶん」
「たぶん?」
「馬鹿なことしそうになったら頭突きくらってでも止めて欲しいですから」

それを言えば、この状況になる前に頭突きしてもらえば良かったのか?
目の前の人を見つめて、それからさっきまでここにいた友人を(ルームメイトじゃない方)を思い返して。
後悔はした。
好きになったことを何度も後悔して後悔して後悔して。
だけど、一番後悔したのは間違った方法をとったこと。
好きな人を傷付けたこと。
ああいうのはもうごめんだから……。

「…愛はあっても歌えない場合もあります」

馬鹿馬鹿しいのは何時でもラブソングじゃないから。
歌えないのはそれがラブソングじゃないから。
後悔するのは口に出してみて気付くから。

−自分のこれは違う




「……さすがにここじゃ人目があるから」
「なんです?」

珍しい苦笑いに問い掛けて。
困らせてるのなら、またこれも馬鹿らしい。

「私の希望」

立ち上がるから、話はたぶんここで終わり。
彼女の希望は聞きたいけど、聞くのが怖い。

「まあ、無道さんが見られるのが好きだって言うならそれでもいいけど」
「は?」
「キスしてるところ見られたい?」
「……は!?」

苦笑いがいつもの笑みに戻ってるから。
からかわれてるだけ、そう考えてもさすがにその言葉は落ち着かない。
……て、言うかもう本当になんでこの人はこの手の台詞をさらっとはくかな!

「て、事でいつもの場所に48秒後に集合ね」
「いや、待ってください。待ってください」
「あと43秒」
「いや、普通に無理ですよね」

人の話は聞かずにさっさと振り返って歩き出すから、本当に追いかけるべきか。
それとも、ここに留まるべきか悩む。
だって、これはあれだ。
いつもの冗談に決まってる。

「あ」
「『あ』?」

足を止めてまたこっちを振り返るから。
残り時間はたぶん後32秒くらい。

「私は無道さんが音痴でも気にしないけど」

言うだけ言うとまた足早に歩き出すから。
その行き先を目で追いかけて………歩く方向がいつも逢っているあの場所の方で。
これじゃ、冗談なのかなんのなかよくわからない。

「…意味が違いますよ」

残りはたぶんあと26秒。
25秒。
24秒。
23秒……。
大きく息を吸い込んで。
邪魔にならないように刀を握って小さく苦笑い。
ああ、もう、本当に。
なんでこんなに馬鹿になるのか。
もう一度だけ苦笑して………自分で出した『GO』の合図に駆け出した。








もし間に合ったら、もし本当にそこにいたら。
まずこう言おう。

「音痴なわけじゃないんです」




Don't sing along because this is not a love song.























下手くそでも聞いてくれますか?










→オマケ
 
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