【3】

□Stereo Hearts
2ページ/3ページ



…My heart's a stereo




いい曲を探すのはこんなにも難しい。
順とゆかり。
あの二人は一見、不協和音のように見えて本当は綺麗な和音を奏でてる。
人に迷惑をかけないのなら、あの二人を諫める理由なんて一つも無いんだけど……。
…私たちはどうだろう?
午後の授業の間、考えていたのはそんなこと。




「…ゆーほ」

耳元で鳴る音はいつも優しくて。
私の手を握ってくれる手の平はいつも温かい。

「どうしたの?」

ぎゅっ、と抱きついた腕の中。
戸惑うように両腕を振り回した後に、ちゃんと望み通りに抱き締めてくれるから。
安心してその肩に額をのせる。

「恵ちゃんに甘えたくなったの」

探して、迷って、辿り着いたのはこの腕。
いつも優しく抱き締めてくれるこの腕。

「好きなだけ甘えていいよ」

髪を撫でる手と背中に回された手と。
その温かさを素肌で感じることは少なくて。
『それでもいい』という思いと。
『これじゃ足りない』という思い。
どっちも同じくらいだから。

「…今日、一緒に寝る?」
「うん、いいよ」

あっさりすぎる返事はたぶん私の伝えたいことが伝わっていない証拠。
すれ違うやりとりに肩に額を押し付けたまま、小さくため息をはいて。
どうしたら、わかってくれるのか。
もっと露骨に誘わなければいけないの?
それとも、恵ちゃんは私とそういうことを望んでないの?
私が貪欲すぎるだけ?
だけど……

「ゆーほと寝ると暖かくて気持ちいいし」

顔をあげればすぐ目の前でふにゃり、と笑うから。
頭と心の中で渦巻いていたことがすっと消えていく。
……こんな風にならすれ違っててもいいかな、って。
あなたにわかってもらう為の音を探してるのに。
いつの間にか探してることすら忘れる。
あなたに伝える為の音を探してるのに。
いつの間にか、もうそれが伝わっていることに気付く。

「あと…、なんか幸せだし」

順とゆかりの関係も好きだし……少しだけ羨ましくもある。
でも、あの二人にはあの二人の。
私達には私達の音がある。

「…恵ちゃんは幸せを作るのが上手だから」
「へ?」

怪訝そうな顔に微笑んで、またその肩に額を乗せる。


…ひとりひとり、お気に入りの曲が違うみたいに。
『いい曲』じゃなくてもいいから。


「…材料はゆーほだよ?」






…私達は私達の曲を鳴らし続ければいい。
心の中で鳴るのは二人だけのメロディ。











―……Just sing along to my stereo


 
 
 
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ