【3】
□For Good(reprise)
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「あ゛ーっ…………」
「何?そのおっさんみたいな声」
「うっさい」
「最近のあんた、妙にげっそりしてるけどどうかした?」
「……うっさい」
もう限界です。
事の起こりは……未練がましい私の行動から。
自分で突き放して、それでも捨てきれずに。
無意識に足が向いたのはあの人と何時も逢っていた場所。
そこに居るかも知れない…。
そう願って、それが現実になって……………そして、あの状況になぜ陥ったのか?
―うん
にっこり笑うから。
ああ、私のことは気にしていないんだな、と胸をなで下ろしたのはほんの一瞬だけ。
―私は私の好きにさせてもらわ
―は?
………人を拘束して体をまさぐるのが好きなことならあの人は立派な痴女だ。
「悩みがあるならこのプリティなルームメイトが聞いてあげましょう」
「今すぐこの世から消えろ」
「ひどっ!」
何が怖いって……それから逃げればいいのに、懲りもせずまたあの場所に行ってしまう自分自身。
触って欲しいって言うなら私だって立派な痴女だ。
懲りたはずなのに。
もうあんな事はしない、と懲りたはずなのに。
「恋の悩みならぜひぜひあたしに!」
「むしろ性欲の悩みだから気にするな」
「うんうん、処理はこまめにした方が………って、あんた自分の言ってることわかってる?」
「とりあえず、あんたに本気で心配されるくらいにはキてるのは分かった」
あの痴女……じゃない、あの人の何が怖いって指先の的確さ。
人を焦らす方法をどれだけ熟知してるんだ……。
それでもキスだけはしないのは不思議なところ。
「……溜まってらっしゃると?」
「溜まるって言うか…」
前にも言った気がするけどそっちの本能は薄いと思ってる。
いや、もちろん快感はあった。
だけど、あれはどっちかと言うと夕歩を逃がさない為の儀式的な意味で。
いや、うん、良かったのは確かに良かったんだからこれは言い訳だろうけど。
「……むしろ、引きずり出されてる感じ」
人の情欲、燃え上がらせるだけ燃え上がらせて消火はしない。
それを何度も繰り返されてれば、げっそりもしてくる。
耳元で囁く声が殺人的に色っぽいとか、そんなの経験したく無かった。
「……羨ましい」
「なら、お前もゆかりに同じことされてみろ!」
口にしたらそれを想像してまたうんざりした。
あ゛ー、ほんとにもう勘弁して欲しい!
「染谷は凄いんだよ!」
「その抽象的なのになぜか妙に生々しいことを言うな、あんたは!」
逃げ出したはずなのに。
壊れたままでいいと思ってたのに。
逃げ切れてない上にとことんまで壊される気がする。
―…無道さん
ああ、壊れてるな、と思うのは。
そう呼ぶ唇はどんな味がするんだろう?なんて懲りずに考えてること。