綴語
□船上の歌い手
3ページ/3ページ
フランキーとブルックも歌を披露し、各々持ち歌が5曲ほどあり、サンジも料理や酒を追加したりと賑やかな時間が流れる。
ゾロも最初の1曲こそバラードという離れ業をやったが、後は無難な曲に落ち着いた。
サンジも少しアップテンポな曲も披露し、徐々に宴も酣状態になってきた。
「いよいよ次が最後の曲ですよ。皆さん、何か疑問はありませんでしたか?」
唐突にブルックが言い出した。
「疑問?」
「あ!」
チョッパーが何かに気がついた。
「ルフィ、ビンクスの酒しか歌ってねぇ!」
サンジはクスクスと笑う。
「ルフィはそれしか知らないんだ。だからブルックに楽曲提供たのんでたんだ。」
サンジが説明するが、今度はブルックが笑った。
「確かにルフィさんはポピュラーな曲はビンクスの酒しか知りませんでした。しかし、もっと大きな意味があるのです!!ルフィさん!!」
「おう!」
ルフィは立ち上がり、息を吸い込み目を瞑った。
そして開かれた目に、全員が息を飲んだ。
不敵で、それでいて繊細な。
曲が流れ、響いた歌声は。
大きな痛みを隠しているようで、愛に溢れていて、
ナイーブなボーイソプラノ。
歌詞は、孤独に耐え愛を見つける…そんな歌詞。
全ての感情を吐き出す様に歌うその姿に、サンジは硬直した。
サンジだけでなく、他の全員も、動けずにいた。
(なんちゅー曲提供してんだよ…)
惚れ直すどころの話じゃない。
これで全てが奪われた。
究極のラブソング。
歌い終わり、ふとルフィが周りを見れば、全員が硬直していた。
「んー、またこのパターンかぁ。なぁブルック、俺大丈夫だったか?」
これを知っていたであろうブルックはルフィの頭を撫でた。
「素晴らしかったですルフィさん。ルフィさんの作詞能力と作曲能力は素晴らしです。」
ここで全員が動く。
「え、作曲?作詞?」
「ブルックが作ったんじゃなくて?」
「えぇ、これはルフィさんが10歳の時に作った曲だそうです。」
「はぁあああああああああああああ!!??」
あまりの意外さに、全員が驚愕した。
「うそ…信じらんないわ。」
「すげぇよ!すげぇよルフィ!」
「意外過ぎる。」
全員が喚く中、ルフィはサンジの横に腰を下ろした。
「どうだった?」
「どうも、こうも…。」
今すぐ抱きしめたいです、と呟くと、ルフィは幸せそうにサンジの胸に飛び込んだ。
「あの歌な、ブルックに頼んで編曲してもらったんだ。んで歌詞も少し変えた。」
音楽祭も終わり、深夜のキッチンでサンジが後片付けをしている背中を見つつ、椅子に座りながらルフィは説明する。
「歌詞、変えてたのか。」
「おう、元はエースと二人で頑張ろうって思いで作ったんだけどな。今はもう状況が違うだろ?だからこれを別の形にしようと思ったんだ。」
「別の、形?」
「みんなに出会えた感謝と、サンジに愛してるを伝える歌にしたんだ。」
「!!」
洗い物の手が止まり、サンジはルフィに振り返った。
「サンジ、ありがとう。俺を愛してくれて。」
「ル、フィ…。」
「サンジのあの曲には適わないけど、俺の気持ちは…」
適わない?
そんなの俺の方だ。
あんな、切実な愛が詰まった歌を、
俺は知らない。
「これからも変わらない。愛してる、サンジ。」
幸せそうな笑顔で、笑うから。
「ルフィ、俺も愛してるっ。」
抱きしめたルフィは、細くて。
でも確かに、幸せの香りがした。
「今から、もう1曲歌うよ。サンジだけに。」
流れた歌は、幸せなフレーズ。
緩やかな、俺たちの未来を
祝福していた。
end....