タイトルなんてのはテメーで好きに付けろ
□始まりはいつだって突然訪れるもの
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ーーーー 驚いて咄嗟に息の根を止めに掛かってしまった。
同じく驚いて動きが遅れた相手と一気に距離を詰め背後に回り込み、首に下げていたタオルで相手を背負う形で首を絞め上げる。
??「ち"ょち"ょち"ょち"ょッ!!待っで待っで待っでェェェェ!!悪気があったわけじゃないんです!!酔って迷い込んじゃった哀れな仔羊なんです!!」
バタバタと暴れながら弁明する男。
その声に聞き覚えがあった。
紫苑(あれ?なんかこの声さっきのアニメのキャラに似てるような……)
突然の事に動揺してちゃんと確認していなかったが、姿も似ていたような気がする。
??「ち"ょ、も"…マジで死ぬ"。逝っち"ま"う"…」
紫苑『あ』
意識が落ちる寸前の男の声に首を絞めたままだった事を思い出した。
紫苑『ワリィ、ビックリして反射的に落としに(殺りに)掛かっちまった』
??「今物騒な副音声が聞こえたんだけど!?『殺りに』って聞こえたんだけど!?」
叫びながらゲホゲホと咽せる男をよく見る。
そいつはやはり先程まで画面越しに見ていたアニメのキャラクター、銀魂の坂田銀時に似ている……なんてものじゃない。
紫苑(いやこれ、ソックリなんてレベルじゃねーぞ。マジであのアニメの主人公じゃねーか、クオリティ高過ぎだろ……)
ここまで再現度の高いコスプレは見た事がない。
不法侵入してきた事を問い詰めるのも忘れ、思わずジロジロと見てしまう。
すると男の方も此方をジッと見ている。
しかも鼻血を垂らしながら。
紫苑『…………あ』
そこで漸く今の自分の姿を思い出す。
そういえば全裸だったと。
今度は三途の川が見える寸前まで首を絞めた。
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タンクトップとハーフパンツに着替え、男の前に座る。
紫苑『ワリィ、焦って反射的に殺しに掛かっちまった』
??「もはや隠してもないよね!?殺意丸出しだよね!?」
紫苑『いや〜、全裸見られてつい動揺してさ。もう大丈夫』
不法侵入にしろ何にしろ、無抵抗の人間相手に流石にやり過ぎたと思い謝罪する。
男は「いちごミルクの川が見えたぞ…」と首を摩りながら呟いた。
この男の中で三途の川の水はいちごミルクになっているのか…。
紫苑『ところであんた、酔って迷い込んできたとか言ってたけど、いったいどっから入ってきたんだ?鍵閉めといた筈だけど』
??「それが俺にもよくわかんねーンだよ。知り合いのババアの店で呑んでたら急に腹が痛くなってよ。急いで厠駆け込んで用足してドア開けたらあんたン家の廊下で……」
紫苑『(厠?ああ、トイレか……)コスプレパーティーでもしてたの?』
??「あ?なんでコスプレ?普通に呑み食いしてただけだけど?ネコ耳付けた奴がいるけど、一応アレ自前だぞ」
紫苑『いやいや、あんたのそのカッコの事言ってンだよ。スッゲーな、マジ坂田銀時そのまんまじゃんか』
銀時「そりゃあ本人だからね。つか、なんで俺の名前知ってんの?銀さんいつの間にかそんな有名になっちゃった?」
紫苑『は?』
完璧に役に成り切っているのだろうか?
だが演技にしては自然過ぎる気もする。
話し方や声、この死んだ魚と例えられる程のやる気のないボケッとした目から何から何まで坂田銀時そのものだ。
紫苑『…なァ、あんた、コレ観てくれるか?』
そう言ってスマホで銀魂の第1話を見せる。
銀時「お、懐かしいな。俺が新八と初めて会った時じゃねーか。記念すべきアニメ銀魂第1話だな」
紫苑『え?あんた本物の坂田銀時なんだよな?自分が二次元キャラだって事わかってんの?』
銀時「ああ?何言ってんだよ。銀魂はメタフィクションが売りだよ?俺今まで何回も視聴者や読者達に話し掛けてるよ?見てない?」
そういえば銀魂は第四の壁破壊しまくりのメタい発言が多い事でも有名だと書いてた。
実際先程まで見ていた話でもメタ発言のオンパレードだった。
銀時「あれ?なんで銀魂観れんだ?銀魂ワールドじゃ自分とこの漫画とアニメは観れねーって聞いてたハズだけどッ!?」
言い切る前に自称坂田銀時…いや、銀さんの肩をガシッと掴む。
確信した…自称ではなく、この男は本物の坂田銀時だ。
紫苑『銀さん…あんた…』
という事は、残る答えは一つしかない。
紫苑『あんた、アニメから現実(こっち)の世界にトリップしてるよ!!』
銀時「………………へ?」