ペット
□少女に飼ってくださいと頼まれました
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蝉の鳴き声がうるさい今日このころ、世間はすっかり夏休みモードである。
いつも通りポアロでの仕事を終え、蝉の煩い並木道を帰る。
きゃあきゃあと叫びながら走り回る子供たち。危ないな、と心の中で呟く。ふと視線をあげると…女の子がものすごいスピードでこちらに走ってくる。
何故か僕に向かって走ってくるような気がするのは気のせいでしょうか。
必死の形相でちらちらと後ろを伺いながら僕につっこんで…否、突進してきた。
「そんなに走ると危な…」
『匿ってください』
「はい?」
唐突に言われた言葉に思わず素っ頓狂な声があがる。
僕に突っ込んできた少女がぱっと顔をあげる。
おお。これはなかなかの別嬪さんである。年は見たところ、中学生というところだろうか…。
『はやく!匿ってください!』
「ちょっと落ち着いて…」
『はやくしないと痴漢野郎って叫びますよ!』
この少女、なかなかすごいことを言ってくるな。
通報されるのはごめんだとさっと腕を引いて裏路地に入る。
狭い路地で僕に身体を寄せながらちらちらと外を伺う少女。
僕に対する警戒心とかないんですかね…。
もちろん襲ったりはしませんけど、ここまで別嬪だと変な男に…。
『…ふぅ、なんとかなったみたいです』
上目遣いにこちらを見上げ、にこりと笑って見せる。そのあまりの愛らしさに少しだけどくんと胸が高まる。
…僕にロリータな趣味はありませんよ。
『それにしてもお兄さん、隠れるの上手いですねぇ。さっとこんなところに隠れるなんて』
まあ、これでも一応探偵なんで、と言うと探偵さん!?と目を輝かせる。
『探偵さん!すごい!!本当にいるんですね!』
本当にいると思っていなかったのかと言いたいのをぐっとこらえ、取り敢えず声をかける。
「えっと…、どうするつもりですか、これから」
『え?どうするって…』
「何から逃げてたんです?もちろん答えなくなければ答えなくていいですが」
そう言うとううん、と少し唸ってから探偵さんだったね!そういえば!と急に叫びだす。正直全然意味が分からない。
『じゃあこうしましょう!私を飼ってください!』
はい?この少女は何を言ってるんですかね。どの辺がじゃあこうしましょうになるんでしょうか。
「…全然意味わからないんですけど。駄目ですよ、僕捕まりますから。分かったら早く家に帰りなさい」
『帰る家なんてありませんよ』
ふふ、と笑う少女に意味深な物を感じる。家出少女だろうか。
「あのですね、僕もうすぐ30代ですよ?君のような中学生といたらもうただのロリコン…」
『私は高校生です!中学生じゃありません!』
まさか。少し驚く。目は利くつもりだったが僕もまだまだ甘いんでしょうか。
でもだって目の前にいる少女は童顔で話し言葉もちぐはぐで咬みあわないし…うん、僕は悪くない。
『お願いします!私がアフリカに売り飛ばされてもいいんですか!?』
別に構いませんと言うと酷い!だから結婚できないんですよ!と言われる。五月蠅い。
「そんな身元も分からないようじゃ…警察にいきましょうか?」
『け、警察?それだけはやめてください…!ホント、私変な人じゃないです!安全です!』
初対面の男にいきなり飼ってください!という女のどの辺が変じゃないのか分からなかったが警察はどうしても嫌なようである。
『お願いします!なんでもしますから!お家に置いてください!一家に一台あれば安心です!』
やはり後半は何を言っているのかよく分からないが身元はまあ調べればすぐ分かるだろうし、探偵だと言ったのに突っかかってくるということは犯罪がらみでもなさそうだ。
…仕方ない。
「…仕方ありませんね。とりあえず今日だけですよ?その辺で野垂れ死なれても困りますし…。名前は?」
『よかったぁ…』
ほっとしたように息を吐く少女。
『あ…名前ですよね。美奈、笹原美奈です。えっと…あなたは?』
「僕の名前は安室透です」
安室さん、と小さく呟き、よろしくお願い致します!と笑顔で言う少女…美奈。
ちょっとかなり意味不明な少女を飼うことになりましたが、僕、大丈夫でしょうか。
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