ペット
□昔の家庭教師に似ていると言われました
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『へんにゅー、しけん?』
大きな目を更にくりくりと大きくしながら、美奈はきょとんと呟いた。
「ええ…学校に行った方が良いかと思いまして」
『いいの!?行ってもいいの!?』
やったぁ!と嬉しそうにはしゃぐ美奈に思わず笑みがこぼれる。
「それで、どこがいいですか?此処から通える距離だと帝丹高校が一番近いですが」
『うん!そこでいいですっ!やったぁ!学校行ってみたかったんだぁー!』
何気なく聞き流したが、その意味を考えてえっと聞き返す。
「行ってみたかった、とは?」
そう言うと美奈は一瞬しまった、という顔をした。
それからちらっと上目遣いに僕を見て、おそるおそる話しだす。
『え…っと。その、家、ちょっと変わってて…学校じゃなくて家庭教師だったから』
そのしどろもどろな様子にこれ以上詮索するのはよそうと思い、そうですか、と話を打ち切る。すると安心したように一息つく顔。…本当に中々事情がありそうだなとそっと息を吐く。
「…それで、編入試験がありますから勉強しないと…」
美奈はこくんと大きく頷く。勉強はやだぁ!とごねられるかと覚悟していたが意外にもそうはならなかった。
『勉強かー…久しぶりだなぁ。…あの、赤本?とかありますか?やってみたいですっ!』
その積極的な態度にこちらがきょとんとしてしまう。やる気があるうちにと思い過去の問題をやらせれば9割近い成績をとっていた。
「…勉強、できたんですね」
『あっ!今馬鹿にしましたね!…家庭教師の先生が凄かったんですよ。英語とか本当に外国人の先生だったし…。…ところで数学何点ですか?安室せーんせっ!』
褒められたことが嬉しかったのか、いつもより2割増しの笑顔でうきうきと尋ねてくる美奈。…無自覚って恐ろしい。あまり気にしていないのか、ブラウスが少し肌蹴て下着が今にも見えそうである。
「えっと…惜しいですね、2問だけ間違えてます」
『あー…2問間違えちゃったかぁ』
2問間違い、だけでも大したものだが結果に納得していないようだ。分かりやすいほどにがっくりと肩を下ろしうなだれている。
『…数学の先生がね、とーっても厳しい先生だったんです。いつも全問あってないと叱られて…そういえば、ちょっと安室さんと似てるかな。なんか変に優しくて厳しい所とか』
懐かしそうに目を細めているが、僕の視線の先は肌蹴た胸元一直線である。綺麗な肌が惜しげもなく露出していて、ふとあることに気付く。
「…美奈、下着つけてます?」
ぎくっと身体を強張らせ、視線を外してつ、つけてますよぉー?と言う美奈の姿は誰の目から見ても不自然だ。
「つけてませんね、その態度は…」
やれやれとため息を吐く。高校生が下着をつけないのはいろんな意味でダメだろう。
『…だって…苦しいんです…ワイヤーが…』
「直ぐに慣れますよ…。ちゃんと下着つけないと、胸の形が崩れてもしりませんよ」
そう言うと美奈ははっとしたように僕の顔を見た。てっきり変態!と言われるのかと思ったが、美奈はぼんやりと僕の顔を見ているだけだった。
「…どうかしましたか?」
『……あ、いや…昔、その数学の先生にも同じようなこと言われたことがあったから…』
一瞬、遠い目をして、少しだけ寂しそうに笑う。
「…そうですか。それにしても下着のことまで口出しする家庭教師って…凄い女性ですね」
『え?数学の先生、男ですよ?』
さも当たり前のように言う美奈に、思わず飲みかけていたお茶を吹き出しそうになる。
「男っ!?本当に大丈夫なんですか?!その先生!」
『あはは、ちょっと変な人でしたねー。…っていうか、それは安室さんも同じなんじゃ』
「僕は保護者だからいいんです」
我ながらなんとも筋の通らない言い訳だと思ったが美奈は納得したようだ。それから、やっぱり似てるなぁ、と寂しそうに笑いだす。
その少し悲しそうな、寂しそうな表情に、まさか、と声をかける。
「…もしかして、その数学の先生のこと好きだったんですか?」
『すっ好き!?そんなんじゃないですっ!』
耳まで真っ赤にして言う姿にそうなのだと確信する。ちくんと胸が痛んだのは気のせいだと思いたい。
『ほんとほんと!あんな冷たくて変態で厳しくて怖い先生なんか…』
「…大好きだったんですね」
『ちーがーうーー!!』
ツンデレ(?)もここまでくると笑えてくる。ふっと小さく吹き出せば笑ったなぁー!と叫びながらぽかぽかと腹を殴ってくる。最早可愛いだけのその仕草に、更に笑いが止まらない。
『もーいいっ!安室さんなんか大っ嫌い!』
「今日の夜ご飯はハンバーグにしようかと思ってたんですが…」
『本当っ!?安室さん大好き!』
この単純明快な少女の扱いにもだいぶ慣れてきた。純粋に、彼女のことが知りたくなってきた。もう少しこの現状を楽しんでいたい。…彼女のことを本格的に調べるのは、もう少し後でもいいか、と思う。
数日後、編入試験を受けた美奈は無事に帝丹高校に入学した。彼女が制服を着てそこに登校するのは、約2週間後のことである。
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