ペット
□デパートで事件発生です
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『シャーペンでしょ、ノートでしょ、それから……』
まだ蝉の鳴き声がうるさく感じる8月中旬、美奈は一人であるデパートに買い物に来ていた。
元々は安室さんと一緒にくるつもりだったが、急にバイトが入ってしまったらしく、ひとりで買い物することになったのである。
『あっあと消しゴムと…ものさし?定規?えぇ…何が違うのかなぁ…』
短パンにTシャツというラフな格好で、何やらぶつぶつ言いながら文房具を買っている姿は、最早「はじめてのおつかい」状態である。
童顔で上背もないので小学生と言われても納得できるほどだ。
『あとー…あっ!ノリだ!テンションの方じゃなくて貼るほうね!海苔糊ノリ〜!』
「な、なんなんでしょうか、あの人…」
「のりのり言ってるから、海苔が食いたいんじゃねぇの?」
「きっと糊を探してるんだよ!歩美聞いてくる!」
「あっ!ちょ!歩美ちゃん!」
「お姉さん、糊を探してるの?」
『ほ?私?』
「うんっ!ずっと糊って言ってるから…」
『あ、うん…実はそうなの。もしかして声にでてた?』
「出てたって言うか…叫んでましたよ」
「糊ならあっちのコーナーだぜ!」
『ありがとう!少年少女たち!助かったよぉ!』
「うん!ねぇ、お姉さん小学生?もしかして帝丹小学校??」
『へっ?私は小学生じゃな…』
「おーいオメーら、何してんだ?」
「コナン君に哀ちゃん!」
「遅いですよ二人とも!」
「わりーわりー、ちょっと博士の探し物手伝ってたから…」
コナンの視線が美奈の方に向き、不思議そうな顔でみつめる。
「あ!このお姉さんのね、買い物を手伝ってたの!」
「ふーん…そうなんだ…え?」
不意に美奈の手がコナンのメガネに伸びてそれを外される。あまりの急な行動にコナンは目を見開いた。
『あれ…ボク、どこかで会わなかったっけ…?』
「え…?」
コナンの身体に一瞬緊張がはしる。刹那、パァン!と平和な町に似合わないような銃声が響いた。
「今の音…銃声…?あっ待って!江戸川君!」
その音のしたほうに、弾かれるように走り出すコナンを追うみんな、と、美奈。
たどり着いたその先には、胸を朱色に染めた人が倒れていた。
犯人が誰か分かるまでデパートを閉鎖され、美奈はやれやれとため息をついた。
『物騒な世の中ねぇ…大丈夫、ボクたち?』
「大丈夫に決まってるだろ!なんたって俺たち、少年探偵団だからな!」
『しょーねんたんていだん?』
「そうです!僕たちは探偵団として、この事件の犯人を…」
「ダメよ。大人しくしていないと」
意気揚々と叫ぶ3人を少し(というかだいぶ)大人びた女の子が制した。
「犯人の使った拳銃だってまだ見つかってないんだし、下手に動けばどうなるか…。あ、あと、そのメガネ、そろそろ返してくれるかしら?」
唐突にこちらの方に言われ、自分の手にあるメガネに気付く。そう言えば、持ったまんまだった。
『あ、ゴメンナサイ。えっと…あの少年は…』
「貸して。私が返しておくから」
『ありがとう…ん?あの少年は?』
そういえばメガネの少年が見あたらない、ときょろきょろ見まわせば、平気で死体に近づいている少年の姿。何あの子すごい。
『…そういえば、ボクたちの名前は?』
「俺は元太!」
「私は歩美!」
「僕は円谷光彦といいます」
「……灰原哀」
『えっと…ゴンタ君にマユミちゃんにサトシ君にバライちゃん?』
「なんか色々ちげーぞ…」
「僕の場合完全に原型をとどめてないんですけど…」
「歩美!あ・ゆ・み!だよ!それから元太君、光彦君、哀ちゃん!お姉さんの名前は?」
『んん…知らない人に名前を教えちゃダメって言われてるし…』
「なんだよそれ!俺たちはちゃんと答えたっていうのによ!」
『それもそうだね…あ、お姉さんの名前はね、美奈、笹原美奈だよ。夏休みが終わったら帝丹高校2年生なの!』
「えぇー…小学生じゃないの?」
『小学生だと思われていたの…?』
それはさすがに傷つく、とがっくりとうなだれる私に、哀ちゃん(だったよね)が声をかける。
「夏休みが終わったら、って?」
『へ?あ、あぁ、ちょーっとね、最近ここに引っ越してきたから』
「ふーん…」
その時、メガネの少年がこちらにむかって走ってきた。
「おいお前ら!あの時、何か見なかったか?」
「あの時?」
「このお姉さんと、糊が売ってるコーナーに来た時だよ!」
「このお姉さん、じゃなくて美奈ちゃんだよ!コナン君!」
「え?美奈…?」
今度はコナンが美奈を驚いたように見る番だった。
『ん?』
「あ、いや…そんなことより!茶色の帽子をかぶった、男の人で…」
それから、コナン君と呼ばれた子供が事情聴取みたいなのをしているのを、私はぼんやりと見つめていた。
この子…どこかで会ったような。
ふ、と頭に薔薇園が浮かんだ。あれ?この薔薇園って…。首を捻る。
気のせいかな?なんて考えていると、どうやら犯人が分かったらしく、慌ただしくみんなが走り出した。
私も歩美ちゃんに手を引かれてそれについていく。
それからある男が子供たちによって追い詰められ、ポケットから拳銃を取り出そうとしたところを後ろから飛んできたサッカーボールに阻害されるというまるで映画のワンシーンが目の前で繰り広げられた。
犯人の男が警察に連行されていくのを見送りながら、コナンと呼ばれた少年の傍に行く。
『すごいねぇ、ボク!あ、ほっぺた擦りむいてるよ…』
ポーチから絆創膏を取り出し、傷のついた頬に貼ってやる。
『強いんだね…』
優しく頬を撫でながら呟く美奈に、コナンは何かが頭をよぎるのを感じた。
「(あれ…?この人…どこかで…)」
『ね、名前はなんていうの?まだちゃんと聞いていなかったから』
「え…あ…。江戸川コナン、探偵さ」
『探偵さんなの?私の家の人と一緒だね!』
「え?美奈さんの家の人って…?」
ピリリリリっ!と携帯の音が鳴り響き、美奈は急いでそれを取り出し電話にでた。
『はいっ!あっ…ごめんなさいっ!怒らないで!ちょっといろいろあって…迎えに来てくれるの?やったぁ!…はぁい、じゃあ、ロータリーで待ってます』
ぷつんと電話が切れると、美奈はコナン君に向き直った。
『じゃあ、私は帰るね!歩美ちゃんとかにも気を付けて帰るように言っといてね。あ、車にのせてあげようか?』
「あ…僕たちも博士…知り合いのオジサンが迎えに来てくれるって言ってたから大丈夫…」
『じゃあ安心安心!…なんだか、コナン君とはまた会える気がする。会ったときは無視しないでね?じゃあね!』
コナンが何かを言う隙も与えず、一方的にしゃべり慌ただしく去って行った美奈の背中を見つめる。
どこで会ったような気がしたんだろう?
コナンは小さくなる背中を見送りながら、はっきりしないモヤモヤに頭を悩ませていた。
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