ペット

□ペットと僕の関係
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『……………』

「……………」

狭い車内の中、沈黙が続く。美奈はひっきりなしに指をそわそわと動かし落ち着かない様子である。

『あの………』

蚊の鳴くような声で声をかけてくるが、気が付かないフリをする僕はなんて狡い男だろう。
それでもちらちらと横目でこちらを見てくる君が可愛くて、ついつい意地悪をしたくなってしまう。

『ええい!!』

急に吹っ切れたように叫ぶ美奈に吹き出しそうになるのを堪え、まるで始めてそのことに気が付いた、というように美奈の方に視線をやる。


「なんでしょう?」

『あ、あの…何か…私、まずいことしましたか…』

怯えながら僕に聞いてくる姿が酷く可愛らしい。

「どうして?」

『だって…その…安室さん…口きいてくれないから…』

どんどん声が小さくなって、泣き出しそうな美奈に少し意地悪しすぎただろうか、と頭を撫でてやる。
すると美奈はびくっと肩を跳ね上げさせてから、大きく息を吐くと同時にその肩を撫で下ろした。

「怒ってないといえば…嘘になるかもしれませんね」

『…どうして……』

「当たり前でしょう」

ふう、とわざとらしくため息をつき、赤信号になったところで美奈を見つめる。

「いつまでたっても帰ってこないし…連絡もない…心配しますよ、当たり前に」

『う…その…ごめんなさい…その…余裕が無かったというか…大変だったというか…』

「それで?どんな事件に巻き込まれたんですか?」

それから美奈は糊を探していると、子供たちに会ったこと、それから銃声が鳴り響いたこと、そしてその後のことを大雑把に説明した。
子供たち。
その言葉に妙に引っ掛かるものを感じる。

「…もしかしてその子供たちの中に…妙に大人びた女の子と眼鏡の男の子が混じっていなかったかい?」

『え?もしかして哀ちゃんとコナン君?どうして分かったの?』

やっぱりか。今度は本心で溜息を吐く。
できるだけ、その辺の人間とは関わって欲しくなかった。

「その子たちならよく知っているよ…もちろんコナン君のこともね…」

ふうん?と若干訝しげな眼で僕の方を見るが、僕は気が付かないふり。すると美奈は観念したように視線を窓の外へ戻す。

『今日は色々あって…疲れましたぁ…』

僕も気疲れしたよと心の中で返事をして、モヤモヤを振り払うようにアクセルを踏み込む。
まぁでも帝丹高校に入学する時点で、こうなることは避けられないのかもしれない。

「あと一週間で学校が始まりますね…ん?」

ふと視線を美奈に向けると窓に頭を寄り掛かり寝ている美奈の姿。
あどけない、子供のような寝顔。つん、と頬を突いてやれば、ん…とうめき声を漏らす。
可愛い、なんて思ったのもつかの間。その後の言葉に胸が痛くなった。

『…せん…せ…い…』

もう一度、突こうとした手を止めてハンドルに戻す。
ふ、と自嘲的に息を吐き、なんだろう、この気持ちは、とハンドルを握る手に力を込める。

どうしてこんな気持ちになるんだろう。
僕はこんなに独占欲の強い人間だっただろうか。
彼女の中の「先生」が一体どういう存在なのか、どういった人間なのか見当もつかない。
だからだろう、余計に彼女の中からその存在を追い出してしまいたくなる。
これは嫉妬なのだろうか?
ふと浮かんだ言葉に吹き出しそうになる。
嫉妬?この僕が?
隣で寝息をたてる彼女を見る。

…きっと、君が僕を慕ってくれるから。
君は、僕がいないと駄目なんだと思わせてくれるから。
だからその目が僕以外を見るのが、嫌なんだろう。
ただの独占欲だ、と自分に言い聞かせ家路を急ぐ。

車を停め、美奈を揺さぶって起こす。

「ほら、つきましたよ」

『ん…んん…?あむ…ろさんち…?』

寝ぼけ眼を擦り、なんとかドアを開けて外に出る。

『なんか…色んな夢…見てた気がする…』

「先生、の夢ですか?」

『え……』

冗談ですよ、と吐き捨てるように言い、部屋に向かおうとすると、ぐいっと背中を引っ張られた。

『違います……安室さんの…夢です…』

涙目に、僕を上目遣いに見つめてくる美奈。
嘘なのか、本心なのか。ワザとなのか、素なのか分からなかったが、それだけで自分の中のモヤモヤしていたものがすっと消えていって、自分の愚かさに笑えてくる。

「……いきましょう」

『あ…あの』

「なにか?」



『今日はその…ごめんなさい』

眉を下げ、いつもの二倍くらい縮こまって言う美奈になんだか安心してぽんぽんと頭を撫でる。
安心したように笑う美奈の姿に、これは何かの幸せな夢なのかもしれない、と、そんなことを想う。



140906
 

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