ペット
□初めての学校生活です
1ページ/1ページ
『えっと、名前は笹原美奈です。…よろしくお願いします!』
まだ少し、残暑が厳しい9月1日。
美奈は届いたばかりの制服を身にまとい、クラスのみんなの前で、恭しく頭を下げた。
「笹原さんは親の事情でこちらに転勤になったそうだ。仲良くするように」
ザワザワとざわめく教室。好奇心を含んだ無数の目。
なんだか自分晒し者にでもされているような気がして美奈は少しだけ眉を顰めた。
「じゃあ笹原さんはあの一番後ろの端の席ねー」
視線をくぐりぬけるように言われた席へ向かう。
自分の席に静かに腰を下ろすと早速隣の席の女の子が声をかけてきた。
「よろしくね、美奈ちゃん…って呼んでもいいかな?私の名前は毛利蘭っていうの!」
「あ、ずるいぞ!ボクが先に声をかけようと思ってたのに!」
『は…はぁ…凛ちゃん…だっけ?』
「蘭です…」
『あっ!ごめんなさいっ!私名前聞き取るの苦手なの…』
「覚えるの苦手じゃなくて聞き取るのが苦手な人って初めて見た…」
『そうかなぁ?』
「あ、ちなみにボクの名前は世良真純!真純だぞ!覚えたか?」
『丸みね!覚えた!』
「ある意味これ才能だな…」
「ちょっと、ナニ三人で楽しそうにしてんのよ!わたしもいれなさいよ!」
「あっ園子!でももうすぐ先生きちゃうよ…」
「こないこない!あの先生いっつもくんの遅いんだから!それで私の名前は…」
「鈴木ー、席につけー」
「チッ…もうきたか…」
…慌ただしく朝の時間が過ぎてゆく。
何もかもが新しい、新鮮な空間。
外の世界に心を躍らせながらも美奈はこの間捕まえられなかった金魚の鈴木のことと、“先生”のことを思い出していた。
「ここはね、この辺で一番おいしいケーキ屋さん!それからね…」
無事に一日を終えた美奈は蘭達と米花町をぶらぶらと散策していた。
残暑が少々厳しいものの、時折吹く涼しげな風が心地よい。
「な、美奈はここに来る前は何してたんだよ?」
『え?うーん…何してたかなぁ…』
「学校はどこ行ってたのよ?」
『えっとね、学校には行ってなかったの…。色んな家庭教師の人がお家に来ててね…』
そこまで話したところで、皆が少し躊躇いのようなものを見せた。それに気づき、慌てて手をヒラヒラと振って見せる。
『あっ!気にしないで!私のお家、だいぶ変なの!っていうか外国のお家だし!』
弁解するように言うとほっと安堵の色を見せる三人。
「外国のお家ね…驚いた。なんか聞いちゃいけないことなのかと思ったよ」
『ううん!全然聞いてくれていいのだよ!…あ、そんなことよりちょっと疲れちゃったからどこかに座りたいな…』
「じゃああの公園に入ろう!」
「あっ!あの公園は新一君と蘭が確か…!」
「園子!やめてよ恥ずかしいから…」
『……しんいち?』
「聞いたことないか?高校生探偵の工藤新一だよ。最近学校に来てないみたいだけど…」
『…聞いたことあるような、ないような』
不意に甘い香りが鼻をくすぐった。なんだろう、花?…私の気のせい?
『ねぇ、何か今甘い香りが…』
「あっ!!ねェ、あれ、ジョディ先生じゃないっ!?おーい!先生っ!!」
『え……』
「oh!蘭サン!園子サン!………美奈?」
『せん…せい……?』
カタカタカタ……
静かな部屋にキーボードを叩く音だけが響く。
「…………」
調べれば調べるほど謎が深まる…美奈という存在。
国籍さえあれば大体は分かるのだが…問題のその国籍がないのである。
ふう、とため息を吐いた時、指先に当たったある資料。
まさか、ね…。
時計を見上げながら、安室は美奈の帰りが遅いなぁ、とひとつ伸びをしてディスプレイに視線を戻した。
140924