ペット

□それもまた魅力ということでしょうか
1ページ/1ページ





『なん…で…こんなところに…』

「え?もしかしてジョディ先生と知り合いなの?」

『や…知り合い…というか』

「Oh!美奈サーン!お久しぶりデスネ!!少し…二人だけでお話がしたいわね」

『え、ジョディ先生ってそんなカタコト…』

「それじゃあ行きましょう!蘭サンたち!少しこの子借りマスネ!また会いまショ!」

そう言うとジョディ先生は私の腕を強引に引っ張り走りだした。


「…なんだったのよ、今の」

「さ、さぁ…知り合い…だったのかなぁ…」


「…ただの知り合いじゃあ、ないんじゃないかな」

「え?世良さん…それってどういう…」

「聞かなかったのか?美奈、あの女の人を見て最初、先生、って言ったんだぞ?」

「じゃああれじゃないの?さっき言ってた家庭教師の先生ってヤツ!」

「あぁ、うん…ボクもそう思うけど…」

それだけじゃないような…。
ベンチに腰を下ろし、話し始める二人を他所に、世良はひとり、難しい顔で二人の後姿を見つめていた。









『はぁ…!先生!走るの速いってば!』

「あらごめんなさいね。立ち話もなんだから車に入りましょう。あまり人気の多いところは…都合が悪いでしょうから」

『えっへへ…さすが先生…よく分かってるぅ!』

「…変わってないわね、そういうところ」

『そーかな?ジョディ先生はまた一段と綺麗になったね!』

「ハイハイ、おだててもなにも出ないわよ。…それで?どうして貴女がこんなところにいるの?訳を説明して頂戴」

『先生は?今は日本で何してるの?』

「ちょっと、はぐらかさないの。貴女、お姉ちゃんは?家はどうしたの?」

『………逃げてきちゃった』

「え?」

美奈は遠くを見つめながら少しだけ、悲しそうに笑った。

『私…変わっちゃった。変わっちゃったから…逃げてきたんだ…』










“笹原財閥”

素性を探る安室の目に留まったのはその文字だけだった。
表には名前を出さない、犯罪スレスレの大事業をしている財閥。
一般の市民はその名前を知ることは許されない。言うならば黒の組織に近いような財閥。

…いや、近い、というより何度か取引をしたこともあるから半分以上犯罪を犯してるといっていいだろう。

美奈と苗字が同じ財閥。
だが調べてみても、娘は一人しかいないようだった。

美奈とは違う名前。生まれた年も10年程違う。何よりも決定的証拠に、美奈とは顔の全く似ていないその娘の写った、家族写真を見つけた。


だからこの財閥とは関係がないと踏み、別の線で調査を続けていた。

…だがここにきて、その財閥に妙な引っ掛かりを感じ、洗いなおしてみれば…。

「…やはり……」

写真に写っていた母親は数年前に他界…。そして、再婚、との文字。
そこからの情報は完璧に隠蔽されていて何も掴むことはできなかった。

信じたくはない。だが。
美奈がその再婚相手との子供だとすれば、お姉ちゃん、の存在も何故その姉と顔が似ていないのかも、説明がつく。

そして、初めて会ったとき、何かから逃げていたこと。
これは十中八九その財閥からの追手で間違いないだろう。

更に、時折感じていた少々浮世離れした発言。
フカヒレスープ、家庭教師、花火…。
すべての辻褄が合ってしまう。

ただの家出だろうが…それにしてはどうにも…。

安室は大きく溜息を吐いてから、時計を確認し、携帯電話を手にとった。




「逃げてきた、って…?」

『…何から話せばいいか…分かんない。でもね、もう…あそこには帰りたくない。ジョディ先生たちが、家庭教師として張り込んでたのが…私が中学3年生の時でしょ…それから…』

「ちょ、ちょっと…貴女、知ってたの?私たちが…本当の家庭教師じゃないってこと」

『あの時は知らなかった。ちょっと変だなぁって思ってたけどね。…だけどパパが言ってたから』

「…そう…。それで?」

『うーん…ほら、私…お話纏めるの下手くそだから…ちょっと待ってね……あれ?メールだ…』

「お友達?」

『えーっと……ああっ!!待って!先生!今何時!?』

「え?えっと…18時10分前ね」

『ヤバい!!!帰らなきゃ!!先生ごめんね!この話はまた今度!』

「あ、ちょっ!待ちなさい!せめて番号だけでも…!」

美奈はジョディの引き留めを聞くことなく車内から飛び出した。
…結局何も収穫できなかったわね。
誰もいない車内で、ジョディは深く溜息を吐いた。








ガチャッ!!ガチャガチャッ!バタンッ!

『…ふぅ…セーフ…間に合った』

「…残念、10秒間に合ってないよ」

『げ…た…ただいまでーす安室さん…』

「ああ、おかえり」

…あれ?
いつもなら絶対たった10秒でも突っかかってくるのに…。
早く帰ってこいとのメールまでよこしたくせに意外にもあっさりと引いた安室さんになにか不思議なものを感じながらリビングに向かう。

…なんか今日はいろんなことがあったなぁ…。

『ん?この匂いは…あさりのお味噌汁っ!!やったぁっ!!』



…一体、何者だ?美奈…。

世良は一人、ベランダで涼みながらそう思った。


…あの子、今どこで一体何してるのかしら。

ジョディはお酒を一人で嗜みながら、そんなことを思っていた。


…あの女の人…確かにどこかで会った気がするんだけど…。

コナンは蘭とおじさんがいつものように言い合いをしている2人を聞き流しながら、一人、頭を捻らせていた。


…美奈。君は…まさか。

安室は作った食事を食卓に並べながら、美奈を見てそう思った。

…そして、張本人である美奈だけが、呑気にうまい!と味噌汁を美味しそうにすすっていた。



141013

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ