ペット

□このままで
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お姉ちゃんは、好きな人とかいないの?


そうね。今はパパもママも美奈も、みんな大好きだからね。それに、ちょっと怖いのよ。


怖いの?


その話はもう少し、あなたが大人になったらね。












「美奈、こんなところで寝ていたら風邪を引きますよ」


『うぅーん…おねぇちゃん……?』


「お姉ちゃんじゃなくて…夜ご飯」



ベルモットとの電話を終え、部屋に戻れば制服姿のままソファーにもたれ掛って寝ている美奈。
短いスカートから惜しげもなく白い生足が露出していてなんとも卑猥なのだがそんなことを思っている場合じゃない。


『ん…ふわぁ…シチュー…?』


「そうです…ほら、ご飯よそっておきますから、早く着替えてきなさい」


『んん…ルー多めにしてね…』


目をこすりながら身体を引きずるようにしてタンスの置いてる部屋に向かう美奈。

まだまだ子どもっぽい言動。何もない、いつもの日常。
一歩離れて見てみれば、それが如何に幸せなのかがよく分かる。




――最近、いつもと様子が違うけれど、まさか何か面倒なことに首を突っ込んでるんじゃないでしょうね。


先程、戒めるように言われたベルモットの言葉。

女の勘とは鋭いものだとつくづく思う。…まぁ、ベルモットが特別鋭いというのもあるかもしれないが。


―あなたが何に首突っ込もうが私には関係ないけど…こっちの仕事を疎かにするのはやめてよね。


多分、ベルモットは気づいている。
僕が少女を匿っているということに…。

それをやめろと言わない辺り、彼女なりの気遣いなのだろう。


『着替えてきましたよーっ。んーっ!良い匂い…』


すっかり目が覚めたのか、伸びをしながら歩いてくる美奈を見つめる。


…このままではいけないことくらい分かっている。
永遠にそんな幸せが続けばいいとさえ思っている自分にも。

永遠。そんな言葉がまだ自分の中に残ってたなんて。

いつでも神経を尖らせてなければいけなかった今までの日々に比べて、今の日常は考えられない程平和なのだ。


それでも、いつか。
いつか終わりはくる。

このままでいい筈がない。


『安室さん?…ここに皺が寄ってるよ?』


心配そうに僕を覗き込みながら眉間をなぞる美奈。


『何かあったんですか?あっ!まさか職場でイジメられてるとか…!昨日テレビでやってましたよ!おつぼねさんってのが威張り散らして、それで…』


残酷なほど、無邪気に。

それでも僕を気遣い、懸命に励まそうとしてくるその姿に頬を緩め、くしゃりと頭を撫でてやる。
すると美奈は安心したようにその小さな肩を撫で下ろした。


美奈の腕を掴み、こちら側に引き寄せる。
美奈は一瞬、驚いたように身体を緊張させたが、やがてゆっくりとされるがままに身体の力を抜いた。

こんなに小さな身体で、一体どれほどの重荷を背負ってきたのだろうか。

少し力を入れて抱きしめれば折れてしまいそうだ。


『…シチュー、冷めちゃう…』


「うん」


『でも……もうちょっと…だけ』


「……うん」


手放したくない。この平和な日常も。小さな身体も。

図らずとも抱きしめる腕に力が入ってしまう。


このままで、このままで、良い筈がない。

だけど。

だけど、もう少し、このままで。



頭を撫で、美奈の顔を上げさせる。

僕を見上げる大きな瞳。そして、その下にある、血色のいい唇。


そっと頬に手をやると、美奈の瞳に狼狽がはしった。

そして、ゆっくりと、彼女に顔を近づけた。





150213

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