ペット

□secret:LOG 5
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“某月某日


夏季休暇も終わって、もうすぐ秋。やっと先生たちに会える!嬉しい!
先生たちが来ない間、お屋敷はとっても忙しかった。意地悪なお姉さんとパパはずっと出かけてたから、私はちょっとの間だけ自由だったの!
暇だったからメイドさんたちとお話してたんだけど、みんな最近のパパは変わったってちょっとだけ怯えてた。
何やら怪しい行動をしてるって口を揃えて言ってた…。拳銃とか物騒なお話。
パパ…大丈夫?悪いことしてないよね?



某月某日


秀一先生にようやく会えて楽しかった。最近、先生の昔の友達お家にこないよって言ったらちょっとだけ残念そうな顔をしてた。そういえば秀一先生、あの意地悪なお姉さんにまたぶたれてないかって聞いてくれたんだ。心配…してくれてるのかな。もうずっとお姉さんとパパはお家に帰ってないから大丈夫って伝えといた。このまま帰ってこなかったらいいのに…。



某月某日


あのお姉さんがいないだけで、毎日がすっごく平和。久しぶりにお庭に出て薔薇園まで行ったの。相変わらず綺麗に整えてあって安心した!パパ、薔薇園だけはすごく大事にしてたもの。私の本当のママが薔薇園大好きだったんだって。私もここ、好き。今年はお屋敷に閉じ込められてて見られなかったから、次咲く時までお姉さんが帰ってこなければいいな…。



某月某日 


もうすっかり冬になって、年明けももう少し。来年も先生たちと一緒に過ごせるかな。過ごせたらいいな。



某月某日


一年最後の日、授業は無いのに秀一先生が寂しくないかってお家まで来てくれたの!パパたちはまだお出かけから帰ってこないし、メイドさんたちもそれぞれのお家に戻っちゃって寂しかったからすごく嬉しかった。
秀一先生といるのは楽しい。一緒にスープを飲んで温まりながら年を越した。このままずっと一緒に居たいなって思った。
もうあのお姉さんも帰ってこなくて、秀一先生とずっと居られたら…。だけど朝起きたらもう秀一先生はいなくなってた。

門のところに意地悪なお姉さんの車が停まってる。帰ってきたんだ。まだ現実に逆戻り…。



某月某日


先生たち、FBIだったんだって。悪いお姉さんやパパを監視するために家庭教師としてお屋敷にきてたみたい。
もうめちゃくちゃ。お姉ちゃんが秀一先生に頼んで潜入してもらってたみたいで、お姉ちゃんはすごくあのお姉さんに怒鳴られて、病院にいれられるんだって。
私も何回も殴られた。本当に殺されるかと思った。
お姉ちゃんが病院に入院しちゃったら、もう二度と会えなくなるの?
そんなの嫌だ…。心も体も痛いよ。だけどもう、先生たちは助けてくれないんだ…。



某月某日


お姉ちゃんが病院に行く日だったから、殴られるのは怖かったけどもう最後かもしれないからお姉ちゃんに会いに行った。
お姉ちゃんは運び出される途中で、私を見たら泣きながら何回もごめんね、ごめんねって繰り返してた。
どうしてお姉ちゃんが謝るの。傍に行こうと思ったけど意地悪なお姉さんに見つかって、部屋に引っ張り込まれた。
お姉ちゃん、泣かないでよ。お姉ちゃんが泣いちゃったら、もう私どうしていいのか分かんない。
殴られたところよりも、お姉ちゃんの泣き顔を思い浮かべた方が、ずっと胸が苦しかった。



某月某日


もう先生たちが来ることは無いし、お姉ちゃんもお屋敷に居ない。何を楽しみに生きたらいいのか、誰に頼って生きていけばいいのか、もう何も分かんない。



某月某日


何も変わらない、何も起こらない毎日が次々に過ぎていく。たまに聞こえるお姉さんの足音にももう怖いって思わなくなった。
怖い…怖いんだよ。だけどもう、その足音が聞こえたらあのお姉さんは必ず私に暴力をふるうから。今日はすぐに終わりますようにって祈るしかないんだもん。



某月某日


つまらない。いつの間にか春になった。お部屋からもほとんど出られない私には関係のないことだけど。
今年も薔薇、見られそうにないな。お姉ちゃんに会いたい。



某月某日


お姉ちゃんの体調が悪くなって、私も病院に連れて行ってくれた。お姉ちゃんに久しぶりに会えるのは嬉しいけど、怖かった。
お姉ちゃん、すごく痩せて、顔色も真っ白で、目も虚ろだった。まるで…亡くなる直前のママみたいだった。
お姉ちゃんの病気、治るよね。若いから大丈夫って言ってたもんね。
ママ、お姉ちゃんを連れて行かないで。



某月某日


お姉ちゃん、とうとうママのところにいっちゃった。
泣けばいいのか、叫べばいいのか、わかんない。
かえってきて。ママ、おねえちゃん。



某月某日


お姉ちゃんの病室から、私宛の手紙が出てきた。字ががたがたで、最後の力を振り絞って書いたのかなって考えたら、涙が止まらなくなった。


「ごめんね。殴られたの、痛かったよね。お姉ちゃん、美奈とパパを助けたかったの。負けないで。どうか、幸せになって。ごめんね、美奈。もう一度、美奈とお花畑に行きたかった」



某月某日


心にぽっかり、穴が空いたみたい。もう何を言われても、何をされても、言い返す気にも、やり返す気にもなれなかった。
お姉さんはそんな私を気味悪がって、あんまりお部屋にこなくなった。

もうなんだっていい。どうせ未来なんてない。このままずっと同じ事の繰り返し。
ママ、お姉ちゃん。私も…ふたりのところにいってもいい?



某月某日


いつの間にか誕生日を終えて、16歳になってた。
お姉さんが、久しぶりに私の部屋に来て、お見合いの話をだしてきた。
日本でその人と会え、だって。

日本…先生。あんなに楽しみにしてたのに、ちっとも心が躍らない。
先生たち…今頃何をしてるのかな…。



某月某日


お見合いしたら…日本に逃げられる?好きじゃない人と一緒になって…私は幸せになれるのかな。
…。…ここにいたってどうせ同じこと。暴力に怯える日々よりはきっと…。



某月某日


有名な小説家がお屋敷に遊びにきたみたい。どうせお部屋から出してもらえない私には…関係ないことだけど。
だけど急に部屋がノックされて、「誰かいんのか?」って男の子の声が聞こえたからびっくりしちゃった。

その人と扉越しにお話した。誰かと話すの久しぶりだったから変な感じがした。

その人、日本で困ってたら助けてくれるって。本当か嘘か、全然分かんないけどちょっとだけ…嬉しかった。

それから、お前はそれでいいのかって。そんなの分かんない…。私は何がしたいんだろう。



某月某日


あの男の子の言葉が、ずっと頭から離れないんだ。私は…これでいいの?私は何がしたいの?

…先生に、会いたいな。会ってどうなるのかなんて分かんないけど。このまま…あの女に、あの女の思い通りに動くなんて、嫌だ。

日本に行って…みよう、かな。お見合いはしたくないけど…。このままは、嫌だから。




某月某日


日本でのお見合いが決まって、色々準備があって、随分日記が空いちゃった。
日記を書いてない間に私は17歳になったよ。毎日は相変わらずだったけど…。
明日はとうとう日本行。ちょっとだけ緊張する。
秀一先生に会えるかな…。だけどとにかく、行ってみるしかないんだ。
荷物は持っていくなって言われてるから次この日記を書くころにはもうお見合いのお話も終わってるんだろう。

未来の私はどうなってるのかな。飛行機の中で色々計画を練らないと!
じゃあ、明日に備えて今日は早めに寝ることにする。
おやすみなさい。次この日記を書くとき、笑顔でいられますように!”






160301

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