ぜろ

□はぐるま
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薄暗い部屋に、彼女が横たわっている。
それはついこの間も見ていた光景。僕が望んでいた、僕の欲しかった景色。

なのに、どうして。


『……ん…』


どうしてこんなに世界はモノクロに輝いているんだろう。




『どう…して…こんな…。手…、手を解いてください…』


孤独な瞳に映るのは、恐怖。
そして、その恐怖の先にあるのは紛れもない僕の姿。

怖がらないで、なんて言葉に意味は無いだろう。彼女にとって、今の僕は恐怖の対象でしかないのだ。

ぎこちないながらも後ろ手で縛られた手をくいくいと動かしている瑠璃。
余程手を縛られるのが嫌らしい。


「ダメですよ。僕の仕事の邪魔をした罰です」


罰。そう、これは彼女への罰なのだ。
僕の仕事の邪魔をしたのは彼女だ。そう結論付けてしまった方が楽だった。


『どうして…。ごめんなさい、ごめんなさい…』


「ごめんなさい?どうして謝るのです?嬉しかったですよ、僕は。まさかあのアパートにまでくるなんて」


そう、すべては君が悪い。メモにはあの日の日付は書いていなかった。どこで何を気づいたのかは知らないが、あの日にあの場所に来た、君が悪い。


「カギを盗んで僕の部屋にこさせて、電話を聞かせ、メモをわざと置いておく…。君は賢い。すべて危険だと分かっていた」


違う、こんなことじゃない。彼女に伝えたいのは、こんなに欲望に塗れた汚い事実じゃない。


「危険だと分かっていながら、君は僕の罠にはまった」


今ならまだ…間に合う。彼女の手を解いて、僕のしたことは間違っていたと…ただ僕は君を守りたかっただけなのだと。そう言えば、そうやって謝ってしまえば…それで。


『………っ』


…今なら、まだ、間に合う?本当にそう思った?
どこからどうみても、怯えた眼差しで僕を見てくる彼女はもう手遅れだ。謝る?謝ってどうなる?彼女は僕を許してくれる?もし許してくれなかったらどうなる?

鼓動が速くなる。彼女を失いたくない。失いたくない。失いたくない。


「残念でしたね。このゲームは僕の勝ちです」


後には引けない。今引けば、それこそ取り返しのつかないことになるかもしれない。
もうどうせ、こうなってしまったらどこにもいけないんだ。それなら。…それなら。


す、と制服の中に手を入れる。滑らかな肌。零れるか細い声。今この瞬間は、間違いなく彼女は僕のもの。


「ずっと、僕だけのものにしたかった。最初に部屋に呼んだとき、僕がどれほど我慢したことか」


僕の中の、もうひとりの僕が暴走する。僕がなにを望もうが、なにを思おうが、それは勝手に話し出してもう止まらない。
抵抗する彼女が、益々もう一人の僕に拍車をかける。もう戻れないから。今更やめることもできないから。


「何故、あの時、君が初めてこの部屋にきたとき、こうしなかったか分かりますか?」


彼女の顎を掴み、視線を合わさせる。孤独な瞳があまりにもまっすぐで、純粋で、一瞬静かに心臓が跳ねた。


『分かんない…っ分からないです……』


僕を見る、絶望したような、信じられないとでもいうような、悲しげな眼。ほら、やっぱりそうなんだ。もうどうにもならないんだ。
全てが馬鹿らしくなって、笑みが零れてくる。どうして今までこんな簡単なことをしなかったんだろう。こうしてしまえば、彼女はぼくのものなのに。

嫌がる彼女を抑えつけ、唇を重ねる。柔らかく、甘い小さな震える唇。僕がずっと欲しかったもの。
この唇も、逃げ回る舌も、今はもう、僕のもの。

一度顔を離して彼女の顔を見る。瞳が泣いている。…どうして?僕は君の傍にいる。君はもう、孤独に瞳を濡らす必要はないのに。
…まだ足りないのか。彼女の孤独を埋めるには、まだ僕の気持ちが足りていないのか。

好奇心のような、焦りにも似た感情。孤独な瞳が嫌でもう一度顔を近づけ口づけをする。制服の中に手を入れ、その柔らかい身体を慈しむように撫でる。

制服をたくし上げると白い肌につけられた下着が露わになる。見ないで、と恥ずかしそうに身体を捩る姿がいじらしい。
恐らくこういったことは初めてなんだろう。彼女に初めての男の味を覚えさせるのはこの僕なのだ。そう考えれば考えるほど、異様なまでの興奮がお腹の下から湧き上がった。


『………っ』


彼女が泣いている。まだ足りていない。
下着を払い、掌にすっぽりと収まってしまうような小さな乳房を優しく揉みしだくと、初めての感覚に困惑しているようだった。
突起まで優しく丁寧に擦ると甘ったるい、女の声が零れだした。
自分でもそんな声がでたことに驚いたのか、恥ずかしそうに口を歪ませ懸命に耐えている。

可愛い。もっと声を聞かせてほしい。
その一心で彼女の身体を貪り食う。未だ布に包まれたままの一番大切な部分を撫で上げると快感を怖がるかのように身体が強張った。


「大丈夫ですよ…」


ここで終わらせたくない、早く彼女に刻み付けたい。そんな自分と、純粋に彼女を知りたいという自分。この言葉はどちらの自分から出たのだろうか。不協和音のような自分の声が酷く気持ち悪い。誤魔化すかのように彼女の陰部を弄り、その中に手を入れる。ぬるりと滑るそこの感覚が嬉しくて、また助けを求めるような彼女の視線が嬉しかった。


「感じてくれて嬉しいです…、ここ、固くなってますよ」


『ひっ!?んぁ…!んん…っ!』


固くなった部分をぐりぐりと潰してやればその度に微かに身体が跳ね、甘い嬌声を漏らす。指を入れると身を捩っているのが分かった。まだ誰も手を付けたことのない、小さくて狭いそこの場所。自分でも触ったことのないような場所を触られているのはどういった気持ちなのだろうか。

彼女の顔を見ると、その瞳には最早何も映っていなかった。絶望、恐怖、快感。いろんな事が短時間にあったせいで何も考えられなくなっているようだ。
瞳が濁っている。透き通らない鏡は、何も映すことができないのだ。

そんなのは、嫌だ。僕を見て。もっと僕だけのことを考えて。恨みでもいい。好きと思ってくれなくていい。何も考えないような、僕を忘れてしまうような…そんなのは、嫌だ。

焦燥感に急き立てられるかのように、自分のモノを取り出し彼女の秘部に押し付ける。ビクッと熱さに身体が跳ね、恐怖に満ち溢れた瞳を僕の方に向ける。

やっと、僕をみた。君の瞳に僕だけが映っている。今、彼女の中には僕だけ。僕だけなのだ。


ずぶずぶと無遠慮に狭い膣を押し広げ、その中に侵入していく。快感では無い締め付けが少し苦しいがそんなこと、今はどうだっていい。


『お願い…抜いて…』


初めてで、環境もこんな状態で、碌に前戯もせず、急にモノを突き立てられたら痛いんだろう。彼女の顔が苦痛に歪んだ。


「罰、と言ったでしょう?楽しいだけでは罰にはなりませんからね」


君が悪い。僕のことを考えるのをやめてしまった、君が悪い。
君の瞳が濁らなければ、こんなことをせずに済んだのに。


『やぁっ!動かないでっ!痛い…うぁ…』


痛みを彼女が感じている。僕の手で。僕の手によって、彼女が痛みを感じているんだ。
彼女のことは、今僕が支配している。僕のものだ。興奮が加速する。やっと彼女は僕のものになったのだ。

激しく何度も何度も彼女を揺さぶって、一番奥まで突き入れ、射精する。愛しい彼女を支配して、種付けをする行為は耐えがたいほどの至福に苛まれていた。


ふと気が付くと、彼女は意識を失っていた。もう一人の自分の手が勝手に伸びて、彼女の頬を撫でる。


「……瑠璃…」


意図せずに零れた声は自分の声。彼女の名を呼んだ自分の声は、何故が酷く、居心地の悪いものだった。





160725

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