ぜろ

□にげないで
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君が泣いている。罪悪感が背中に突き刺さる。
違う。こうじゃない。少し冷静になれば分かることだ。こんな風に瑠璃を手に入れたい訳では無いと。

だけどその次に浮かぶのは僕の横をすり抜けていく君の姿。いかないで。そばにいて。にげないで。

そんな自分の情けない姿。浅い眠りの中、僕は一晩中身震いを繰り返す。




「…う……」


少し疲れていたようだ。思わずうたた寝をしてしまうなんて。
浅い眠りを一通り終えた体はむしろ先程よりも覚醒していた。瑠璃はリビングだろうか?僅かに開いたドアの隙間からリビングを見る。けれどそこに人の気配らしきものは無かった。


「………」


背筋が一瞬にして凍る思いがした。反射的に身体を起こす。もう何度も何度も繰り返してみる夢。あの桜に包まれた初めての日。あのまま瑠璃が僕の横を通り過ぎて、どんどん背中が小さくなって、離れて行って、遠く、遠く、もう届かないところまで―――。


『…っあぅ…!い、た…っ』


気が付けば玄関で鍵を外そうとしていた瑠璃を強引に抑えつけていた。いかないで。いかないで。いかないで。心臓がありえないくらい速く打ち出していた。


「何してるんです?」


声を震えないようにするのが精いっぱいだった。どうして?なんで?分かり切っているのに、答えを出したくない疑問が身体中を埋め尽くしてゆく。


『い…痛い…っ!!』


答えて欲しいのに、答えて欲しくなかった。だって瑠璃の答えが自分の求めている答えとは違うのは、考えなくても分かることだから。


「本当に…油断も隙もありませんね…」


『いた…っ!うぅ…っ!』


どうすればいい?どうすれば瑠璃は僕のものになる?
一心不乱に瑠璃の身体に喰らいつくと拒否をしながらも反応しだす瑠璃の身体。こうすればいい?こうしている間だけは瑠璃は僕のものだ。誰かが入る余地なんてない。ぼくのものだ。…本当に?

絶対的な力の差を見せつけながら、しっかりと快感を与え絶妙に瑠璃の身体を支配する。ほら、ほら。こうすれば気持ち良いんだろ?今だってほら。少し身体を撫で上げ言葉で追い詰め、無防備な身体に吸い付けば気持ちよさそうに声をあげるくせに…。

だけど瑠璃は僕のものにはならない。だって君は僕のことが嫌いだから。だったらもう、形だけでも僕のものにして、閉じ込めてしまいたい。

瑠璃の頭を抑えつけ、強引に自分のモノを咥えこませる。もう瑠璃のことなんてお構いなしだ。自分の気持ちが良いように腰を使って、喉の奥に押し込め、嫌がる身体を抑えつけ自分の体液を無理やりに飲ませる。嫌がる姿ですら愛おしい。
こんなことは今まで一度もしたことがないんだろう。お世辞にも上手いとは言えないし好んでしている訳でもないのだが、恐怖心からでも必死に行為に応えようとしている姿は技術以上の興奮と愛しさをもたらした。その愛しいと思う心に駆り立てられるまま小さな頭を撫でつけると当たり前のように振り払われた。
だけどその振り払う仕草にはどことなく羞恥が紛れていたような、気がした。勿論大部分は無理矢理自分を支配する男への嫌悪感なのだろうが、そこに微かに男の、僕に対する羞恥を垣間見たような気がして、心のどこかがどくんと舞い上がったのが分かった。


『こんな…っ酷い…っ』


「逃げようとする瑠璃さんが悪いんですよ…」


今なら…もしかして。少しくらいなら。
高揚した身体と、ちょっとした悪戯心。
瑠璃をその場に置き座りにして、わざとくるりと背を向けて足早にその場を立ち去ろうとする。
僕の背中越しに困惑している瑠璃の視線を痛いくらいに感じた。


「どうしました?」


わざちらしく尋ねると顔を上気させ、恥ずかしそうに僕のことを睨み付けてくる瞳。
快感は充分に与えた。身体は既に言う事を聞かない筈だった。
素直になることのできない未熟な心と身体。本当はもっともっと苛めて堕としてしまってもいい。だけど今日はまだ。瑠璃の心身に無理な負担をかけすぎるようなことはしたくなかった。
瑠璃を抱きかかえてベッドルームに連れていき、自分の上に跨らせると瑠璃の身体中に狼狽が走った。
そそり立った自分のそれを彼女の入り口にマーキングするように擦り付ける。びくっ、びくっとその度に反応するのが可愛らしい。


「自分でいれなさい」


何かを言いたそうな瞳が向けられるが逃がしてなんかやらない。痛めつけるように快感を与え、逃げ道を作ってやると覚悟したようにゆっくりと腰を下ろした。

ゆっくり、ゆっくりと自分のそれが柔らかい肉の壁に包まれていく快感。まだ行為を数回しか受け入れていない彼女の身体は半分ほどそれを収めたところでぶるぶると痛みと快感に震えていた。


『も…っむり…っ』


懇願するように涙目で訴えてくる、こんな彼女を見て愛しいと思わない男が一体どこにいるというのだろうか。
細い腰を掴み、ぐっと奥深くまで突き刺すとぷるぷると幼い身体は震えていた。


『うぁぁあ…っ!うご、かないでぇ…っ!』


体温があがってくる。彼女の身体は今すべてを僕が支配している。
下から突き上げるように動かすと細い身体は僕の胸へと倒れ込んだ。
この小さな少女は今、身も心も僕に預けきっているのだ。
彼女の荒れた呼吸が酷く心地良い。

彼女の小さな身体を抱きしめ、身体を入れ替えて覆いかぶさる。そのまま抱きしめたまま、欲望と愛しさに駆り立てられるままに激しく腰を突き動かす。

自分の限界を感じ、より強く抱きしめて身体を密着させる。それに応えるようにまわされる細い腕。こうしているとすべてがひとつになったかのような錯覚を覚える。…錯覚に過ぎないのだけれど。

…だけど、今はそれでいい。錯覚だって一時の気の迷いだってなんだって…。今はこうして、これが幸せだから。代えがたい幸福感に包まれているから。


『ああああっ!…っぁ!!…っ…』


「く…っ」


ぴったりとくっついて彼女の奥に自分の種を植え付ける。そのまま抱きしめたまま倒れ込み、再び深い眠りへと誘われていく。

…小さな小さな。けれども確かに。心臓の音がする。
今君は何を考えてるの?その薄い瞼の下に浮かんでいる景色は何なんだろう?

回した腕からは、確かにはっきりと、心臓の音が伝わっていた。





170329

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