ぜろ

□ほんのう
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「まだですよ」


『きゃぅ…っ』


くたりと横たわる瑠璃を仰向けにしてその柔らかい唇を奪う。色々な気持ちが靄のように頭を占領していた。

好き、とか、愛してる、とか。

寂しい、とか、僕だけを見て、とか。

どうせ、とか、分かってる、とか。

全てがぐちゃぐちゃになって、整理のつかない頭のまま瑠璃を手にかける。優しく、大切に。酷く脆い身体が壊れてしまわないように。

瑠璃の身体が桃色に染まるのが分かる。甘い声が所々聞こえる。気持ち良い?嬉しい?勿論、そんな言葉をかけることはできないけれど。

それでも、身体の方は僕を求めてくれているのが嬉しかった。どれだけ僕のことを嫌いでもいい。今この瞬間だけでも、僕と本能に身体を預けてこの時間に委ねてくれれば、それで。

ふと瑠璃の身体の熱が少しだけ冷ややかに感じ、彼女の方を見た。瑠璃は現実から目を背けるようにその瞳を閉ざしていた。ずきっと胸が痛くなる。
やっぱりどうしたって無理なのか。外堀をどれだけ埋めても、その中は更に強い殻で守られていて、僕にそれを開かせてはくれないのだろうか。


「瑠璃?」


名前を呼ぶと、綺麗な瞳が少し遅れて僕の方を見る。ああ、なんて綺麗な瞳なんだろう。青白くて冷めてて、汚い僕を純粋に映してくれる宝石のような。その奥が見てみたい。瞳の奥を覗いてみたい。のに。


「……どうして」


どうして君は心を閉ざしてしまうの。踏み込めない領域を頑なに守ろうとする?僕では…それは無理なのか?

それができるのは、やっぱり、工藤新一なのか…。

僕の今までが全て無意味になった気がした。今まではなんとかなるんじゃないかとどこかで期待をしていたけれど、その拙い希望はもう意味をもたなくなった。頭がもう無理なんだと理解した瞬間、ふっと身体中が冷たくなるのを感じた。

瑠璃にキスをしたけれど、冷たい感触が走る。全て、無意味なのか。僕のしてきたことも全て。どうにもならない。無駄だったんだ。

重い扉がゆっくりと閉まる、その瞬間瑠璃の白い手がそれを抑えた。一瞬のうちに身体が熱を取り戻す。感じる、瑠璃が僕を求めている感覚。それに応えるように瑠璃の身体を抱き込む。

だけどもう、僕の心の奥の扉は鈍い音を立てながら閉まりつつあった。身体を求めれば求めるほど、寂しい気持ちが膨らんでくる。やるせない感情が胸の中を占領する。

どうして。どうして僕をそんな風に求めてくれるの?
僕のことをもう心の中には入れてくれないのに。

前までならその行為に希望を見いだせたのに、今の僕にはできない。違うんだ、彼女が見てるのは僕じゃないと絶望的なくらい思い知らされたから。

瑠璃は甘い声で僕を呼ぶ。分かってる。いや、分かってないのかも。まだその瑠璃の行動に嬉々とした気持ちを持ってしまっているのも確かなんだけど。
だけどもう僕は希望を持ったりしない。未来を考えたりもしない。だって君が夢見ているのは僕じゃないから。工藤新一だから。


激しく身体を求め合い、身体を愛し合った後、瑠璃は疲れたように倒れ込んだ。僕はそれを、モニター越しで見ているような冷めた気持ちで眺めていた。

瑠璃の頬に涙が伝う。冷たくなった心は、それにすら辛い気持ちを感じなくなった。

やっぱり君は、泣くんだね。

どちらかというと浮かぶのは酷く冷めた諦めにも近い気持ち。
名前を呼ばれても、尚のこと冷たい気持ちが膨らんでくるだけ。

瑠璃の隣に横たわっても、いつものように抱きしめることができない。回そうとした腕は瑠璃の身体に触れることなく、自分の身体へと帰る。

もう触れられない。僕じゃない。そのことを身に沁みて感じた結果がこれだった。これからどうするか考えなければと思うが、今は酷く疲れていた。頭が重い。何かを考えるのが煩わしい。

気ばかりがやたらと立っていた。隣で規則正しい寝息をたてる瑠璃を感じながら、今夜は眠れない長く冷たい夜がくることを僕は予想していた。



171116

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