短編

□あなたのことが好き
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「瑠璃ちゃん、僕と付き合ってください」


告白された時、ショックだった。

白澤様が、無類の女好きというのは周知の事実だったから、
私もそんな軽い女にみられてるんだ、って、少し悲しかった。


「やっと会えたね」

今日は久しぶりに二人お買いもの。
久しぶり、といのも私が一方的に白澤様を避けていただけで、誘いは何度も何度もきていた。


『すいません、都合がつかなくて』

「そんな謝らないでよ。どうせアイツだろ?」


あの地獄の補佐官野郎だろ?と言う白澤様に頬を緩める。
私は地獄勤務で、鬼灯様にはよくお世話になっている。

「いかにも部下に仕事おしつけてそうだもんな」

顔をしかめ、嫌そうに言う白澤様に、そんな嫌な人じゃないですよ、と諭す。

そう?瑠璃ちゃんが言うならそうなのかな、と言う白澤様の言葉に女慣れを感じてふっと地面に視線を落とした。

「どうしたの?」

『あ…、いえ』

「…瑠璃ちゃんてさぁ、僕といて楽しい?」

少し悲しそうに言う白澤様を見上げる。
そんなことないです。と言うとそっか、と返され沈黙が続く。


ずっと好きだった。

付き合う前は、仕事で桃源郷に行く度に心が弾んだ。
なのに、今でも好きだという気持ちに変わりはないのに、今は桃源郷に行くのが酷く億劫である。

女の人がでてきたら?
そう考えるだけで地獄に帰りたくなる。

実際、付き合う前は何度も見ていた。
痴話げんかのようなものも日常茶飯事だったし、誰、この女?とケンカをふっかけられることも偶にあった。

ちらっと話そうとしない白澤様を見る。


あ、唐突に白澤様が呟きぱっと視線を外す。


「しまった、高麗人参のこと忘れてた」

『高麗人参ですか?』

「うん。明日までに地獄にもっていかなきゃなんないんだ」

『それなら私が持っていきますよ』

「あ、うん…。それがさ、まだ採りに行ってないんだよね…」

『じゃあ手伝います』

「いいよいいよ。すぐ終わるから。悪いけど先に家に行っといてくれる?」

瑠璃ちゃんの綺麗な手を汚したくないしね、と言う白澤様に、恥ずかしくなってぱっと顔を背ける。
どうしてこんな歯の浮くセリフがすらすらとでてくるんだろう。…嬉しいけど。


白澤様と別れ、一足先に店に帰る。
中に入ると桃太郎さんが薬膳を作っているところで、こんにちは、と挨拶してくれる。

『こんにちは、お邪魔します』

「どうぞどうぞ…あれ、白澤様は一緒じゃ無いんスか?」

『白澤様は高麗人参を採りにいかれましたよ』

そう言うと、言ってくれれば俺が行ったのに…と呟く桃太郎さん。

「こんにちは!瑠璃さん!」

『あ、シロちゃん』

はっはっは、と近寄るシロちゃんの頭を撫でる。柿助君とルリオ君は?と聞くと、二人はねぇ、仕事中だよ!!…待って、シロちゃんは?

「僕はちょっと鬼灯様のおつかい!」

おつかい!と言って薬膳を食べている気がするのは気のせいだろうか。見なかったことにしよう。


「ねぇねぇ、瑠璃さんって白澤様と付き合ってるんでしょ?どうなの?どうなの?」

「ちょ、シロっ!おま…」

尻尾を振り目をキラキラさせて聞くシロちゃんを抑える桃太郎さん。すいません、と謝る桃太郎さんに、いえ、そんな気にしないでください、と返す。

「白澤様って本当に瑠璃さんのこと好きだよね!」

『え…?…そんなことないよ。白澤様は皆と同じように私のこと好きってだけで…』

よしよし、シロちゃんの頭を撫でる。
桃太郎さんはううん、と首を捻っていた。

「そうっスか?そんな風には見えないけどなぁ…。瑠璃さんと付き合い始めてから女の子連れて遊んでるのみたことないし、先ずあの人、女の子には僕と遊んでくださいっていうから…」

「そうだよ!最近の白澤様の匂い、僕の好きな瑠璃さんの匂いしかしないもん!」

くるくると私の周りを走り回るシロちゃんにおっと、とバランスを崩す。
危ない!桃太郎さんが助けてくれる。

『ありがとうございます…あ』

「…なにしてんの?そこの美女と野獣」

声に驚いて入口を見れば、不機嫌そうな白澤様。

『おかえりなさい…きゃ!』

私の言った言葉を無視して手首を引っ張られ、奥の自室へと連れ込まれる。
そのままベッドに投げられ、馬乗りになられた。

『…はくたく、さま…?』

怒ってるの?その言葉を言う前に口をふさがれる。

『んん!?んーっ!んっ!』

貪るように口内を荒らされる。
どうして、こんなこと…。一筋涙が頬を伝った。

「…なんで泣くのさ」

顔を離し、悲しげな顔で頬の涙を指で絡めとる白澤様。

『…私、不安で…っごめんなさい…』

涙がとめどなく溢れる。そんな私に白澤様は困惑した表情。

「不安?」

『白澤様が…っ本当に、私のこと…好きなのかって…』

本当はずっと聞くのが怖かった。
でも、こんな状態がずっと続くんなら…。そう思い口を開く。

「……瑠璃ちゃん」

そう言ったきり口を開かない白澤様。
もし、これでフラれても…。その時はもう、諦めよう。

ぽすんと私の横に横たわると後ろから優しく抱きしめられる。

『白澤様…?』

「ごめん…。信じられないよね。こんなに女の子と遊ぶ奴のこと…」

哀しそうな声に胸がズキンと痛む。

「でも、瑠璃ちゃんのことは本当に…好きだよ。他の女の子に興味なんてなくなるくらい」

初めて「好き」って言ってくれた…。
また涙が溢れる。

「瑠璃ちゃん?」

『今…初めて白澤様が好きって言ってくれた…』

嬉しい、泣きながら笑う私をじっと白澤様が見据える。

「ごめんね…いつも…どうでもいいことはなんだって言えるのに、本当の気持ちは言えないんだ。ごめん…」

白澤様をぎゅっと抱きしめる。

『私も…白澤様のこと、好きです』

「瑠璃ちゃん…」

強く抱きしめられながら、ごめんね、と謝られる。私こそ、信じきれなくてごめんなさい、と言うと益々強く抱きしめられた。

「ね…キスしていい?」

いいですよ、返事の前に私からキスをしてやる。
くるんと簡単に押し倒され、求めるように首に手を回す。

「好きだよ…」

熱っぽく言う白澤様に、目を閉じ強く抱きついた。





…情事後、部屋の外にいた鬼灯様とシロちゃんに尋問されたのはまた別の話。

140723

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