短編

□市丸ギンとお昼休み
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『市丸隊長!!早く起きてお仕事してください!』

「んん…後5分…」



ある三番隊の中庭のこと。
大きな木の陰になっていて、風通しの良いそこは、絶好の昼寝スポットである。


『ダメです!もう5分過ぎました!』

「早すぎやろ…」

うんうん、と唸りながら再び目を閉じる市丸隊長。
可愛いなあ、なんて心の隅で思いつつ、だめだめ、起こさなくっちゃと本来の目的を思い出し、何度も体調をゆさぶる。


『起きてるんでしょ!今日という今日はちゃんと起きてお仕事してもらいますからね!吉良副隊長が倒れちゃいます!』

「それ、昨日もゆーて、結局…」

『だから!今日という今日は!です!』


ええやん、と口をとがらす隊長。くそう、かわいい。絶対その辺の隊士よりも可愛いからな、この人。

でも私とて引き下がる気はない!何故ならば私が副隊長にどやされてしまうからだ!
いや、どやされるというより、「またかい…」と死にかけの魚みたいな顔をされるだけなのだが。
地味にどやされるよりも精神にくるのだ。


『いやもうホント、私日に日に死にかけていく副隊長のこと見てられません』

「なんやのん自分…イヅル、イヅルって」

『きゃ……』

ぐい、っと手首を引っ張られれば、簡単に隊長の上に倒れこんでしまう。
そのまま背中に手を回され、力強く抱きしめられる。

『やだ、離して…』

「いやや」

頭の上から降ってくる声はどこか楽しそうで、弄ばれてるような気がしてむっとしてしまう。
昨日も一昨日も、こうやって抱きしめられて、うやむやなままお昼の業務に遅刻…。
さすがにこれ以上遅刻を重ねるわけにはいかない、とその大きな胸から離れるように体に力をいれるも、益々強く抱きしめられてしまう。

「ちっちゃいなぁ。僕ん中にすっぽり収まってしまうで」

『……隊長が大きいんです』

「隊長、やないやろ?」

大きな掌で頭をくしゃくしゃと撫でられ、顔が近付いてくる。

『…ん…ギン…』

勝ち誇ったような顔でニヤリと笑うギン。
この人には敵わない。

角度を変えて、何度も何度も噛みつかれながら、耳の端で昼からの業務の音を聞く。

その音を聞きながら、今日もまた間に合わなかったな、とぼんやり思った。









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