短編
□○○を殺すセーター
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<安室編>
童貞を殺すセーター、というものがあるらしい。
というのも別に自分がチェリー狩りをする痴女だとかそういう訳では無くて、大学の友達の話を聞いていると一部ではそういう服が流行っているようだ。
『……………』
特に変な意味もナニに使おうと思った訳じゃ無い。ただサイトを見てみればハイネックのセーターで意外に可愛いものだと思ったから、興味本位で注文してみただけだ。
なのに……これは…。
『……。……酷いわ、これは』
早速届いたそれを開けて、一人暮らしをしている自分の部屋に身に纏ってみると、なんともまぁそれは酷い惨状だった。
そのセーターはグレーのニット素材で、ハイネックの部分からそのままエプロンのような一枚布になっていた。袖は無く背中の部分の布もない。胸部から腹部を覆っていた布がそのままお尻の部分に繋がったワンピースだ。
……本来なら胸とお尻の大きさで「見えそうな」部分は隠せるんだろう。そのぎりぎり見えそうで絶対に見えない大切な部分がどうやら童貞たちの熱い心を動かすらしい。
けれど私が実際着てみれば…。
『…駄目だこりゃ。丸見えじゃん…悲しくなってきた…』
どうやらこの服は一定以上ナイスバディな身体じゃないと着こなせないようだ。胸も尻もない私では、横から見れば胸の厚みで隠せる大切な部分は丸見えだし、お尻の部分も最早何も纏って無いも同然だ。
「童貞を殺すセーター」なるものは同時に「貧乳を殺すセーター」でもあったらしい。胸が無いのは長年の悩みではあったがここまで服に着られるとなるとこれはもう服が悪い気がしてくる。
はぁー…、と鏡に映った姿に溜息を吐いて、着替えようとする。無駄な買い物しちゃったなぁ。まぁ、ネタで買ったから別にいいんだけど…。
その時だった、がちゃん、と小気味のいい音を立てて玄関の扉が開いたのは。
「ただいまー…、っ!?」
『と、と、透!?び、っくりしたぁ…!』
突然彼氏が部屋の中に入ってきて心臓が飛び跳ねる。この人は気配が無いから心臓に悪い。
『もう、合鍵渡したけど来るなら言ってよ!びっくりするから…』
「あ、ご、…めん」
珍しく透がぎょっとして固まっている。どうしたの、と声をかける前にその視線の意味に気づき、ちょっと恥ずかしくなって慌てて弁解をした。
『あ!こ、これはね、その…最近流行ってるみたいで。その…興味本位で買ってみたんだけど。私の幼児体型じゃなんか酷いことになっちゃって…』
こんな服を買っていたことと、そのあまりに酷い着こなしについ口ごもりながら話してる間に、透はずんずんと近づいてきた。そしてそのまま強引に腕を引っ張られ、ベッドの上に引きずり込まれる。
『っきゃあ!?どうし…』
「これ、確か童貞を殺すセーターだっけ?」
『え?なんだ知ってたの?童貞っていうか貧乳を殺すセーターだよね、どっちかというと…っん、…っ!』
覆いかぶさった透に唇を奪われる。いつもの優しい愛撫のような口づけではなく激しく求められる獣のような口づけ。状況を整理する間もなく、2度、3度と唇を蹂躙されたところで漸く解放された。もう私の腰は既にくたくただ。
『…っ、ど…ぉしたの…、急に…』
「…殺されたかも。童貞じゃないけど。責任とってくれるよね?」
この後獣と化した透にめちゃくちゃ責任とらされた。
170201
→赤井編