短編

□安室&赤井さんとポッキーゲーム
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<安室編>



『ポッキーゲーム、しない?』


穏やかな日曜日の昼過ぎだった。
お出かけをしてもよかったのだがたまにはお家でのんびりしようとお菓子を食べながらテレビを見ていた時のことだ。
ソファーで私の隣に座りながら、小説に目を向けていた透がふと顔をあげた。


「ポッキーゲーム?」


『そ、これ、端からお互いに食べて、お菓子を先に離した方が負け』


棒状の、先がチョコレートでコーティングされたお菓子を指さしながら話す。

特に意味も無い、ちょっとした出来心だ。
私と透の空間はいつもこんな感じだ。同じソファーに座っていても意外と別のことをしていることも多い。
お互いが好きなことを好きなようにやって、たまに話して、遊んで、また自分の時間に戻る。
この独特の空間が私は堪らなく好きだった。

先程まで小説に没頭していた透が興味深そうにふうん、と呟いた。
その眼にはしっかりと好奇心が敷き詰められていて、この提案に乗り気であることに安心する。


「いいよ。でもゲームなんだよね?だったら何か…賭けるか何かしようよ」


『うーん…じゃ、負けた方は勝った方の言う事なんでもひとつ聞く、っていうのは?』


「いいね。お互い本気でやろう」


『当たり前じゃん!じゃ、透がチョコの方ね』


コーティングされてない部分を咥えて透の方をじっと見つめると、負けず嫌いな子どもっぽい瞳が妖しく光る。
ふっと笑った透がもう片方の端をゆっくりと咥えた。その仕草はなんだかとても色気に溢れていて心臓のところが恥ずかしそうに甘く震えた。

お互い目で合図すると、ぽき、ぽきとゆっくりと口を進めていく。スピードは互いにあまり変わらない。ゆっくり、ゆっくりとゲームが進行しながらお互いの顔が近づいてゆく。

そうは言いながらも二人の視線はあくまでお菓子に向けられていた。あとこれくらい。お菓子の位置と長さを確認しながらそれを食していく。

自分の横に流している髪の毛が顔にかかって、思わず右手でそれを耳にかけ直す。その時不意に視線があがって、透との顔の近さにどきんと心臓が躍った。

お菓子の長さはあと数センチ。透との顔の距離は、息がかかってしまう程近い。

私の一瞬の狼狽を透は感じ取ったようだった。お菓子を見つめていた透の視線が私に合わさる。その青みがかった悪戯な瞳は既に、勝利を確信した鋭い目つきになっていた。

私はこの瞳に弱かった。この目をむけられると身体のどこかの力が抜けて、透に好きなように支配されたいと思ってしまう。

透の掌が私の肩を包んで思わず少し仰け反ってしまう。あっというまにラストスパートをかけ、リズミカルにお菓子を食べつくす透。それは止まらなくて、ちゅっと唇にまでも喰らいつくと私の咥えていたお菓子ですら食べつくしてしまった。


『と…っ、んん…っ』


まるで一片の欠片も残さんとばかりに私の唇を、口内を支配する。背骨のあたりがぞくぞくする。甘い痺れが足の方から背中を突き抜けて、あたまのてっぺんまでを覆いつくす。

しっかり味わって、透のくちびるが漸く離れた。透明な糸がつぅっと2人の間を繋ぐ。心臓がどきどきしている。ああ、もう駄目だ。わるい薬でも飲まされてしまったかのような。勝手に身体のスイッチが入ってもう、言うことを聞かない。


「僕の勝ち。…約束だよ。僕の言う事、ひとつ聞いて」


ぐい、っと透の手が私の肩を押してソファーに押し倒した。チョコレートの甘い芳香が二人の間を包む。


「このまま続きを」


ちゅ、っと首筋に顔を埋めた透の言葉に、私は高鳴る心臓を感じながら、ゆっくりと透に手を回すことで応えた。




170404
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