短編

□安室&赤井さんとポッキーゲーム
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<赤井編>


きっかけはくだらないことだった。
今日の夜ご飯はどっちが作る?と何の気なしに尋ねたところ、なにやら秀一の顔が悪いものに変わったのでおかしいとは思っていたのだ。

不敵に、というよりもにやにやと厭らしい笑いを浮かべながら秀一は一本のお菓子を取り出した。


「じゃあ、これで決めよう」


『……ポッキー?』


全くこの一見堅物に見えるスナイパーは一体どこからそんな知恵を手に入れてくるのだろうか。
背の高い秀一を見上げる形になる私は秀一のことをきっと睨みながらゆっくりと問いただす。
超人的なこの人はちゃんとルールを作って決めておかないと結局穴を突かれて私が損をする羽目になるのだ。


「俺はこっちから、お前はこっちから。食べ始めて、先に口を離した方が負け。今日の晩飯当番だ」


『ふうん…ちゃんと約束は守ってよ?』


「勿論。ハンデをあげよう。この手の勝負ではいつも俺が勝ってしまうからな」


そう、この男は頭も顔も何もかもいいけれど何よりも勝負強い。
ゲームをしても大概は私が負けてしまう。それは頭の使うゲームだけでなくじゃんけんなどの運ゲーももちろんそうで、秀一曰く私はポーカーフェイスができないから何を考えているか手に取るように分かるらしい。(反則に近く、今までじゃんけんでもほとんど負けている)


『…ハンデって?』


馬鹿にされているようで悔しい気持ちもあったがハンデが無いと勝てないのも事実だ。ここは大人しくハンデを受けていた方が得だろう。


「ああ、俺は動かない。これは細いから数秒咥えていたら折れてしまうだろう。お前は自分のが折れる前に全て食べてしまえばいいだけだ。どうだ?」


『そ…そんなの秀一絶対に負けるじゃん』


「まあ、たまにはな」


それなら最初からゲームしなくても?とも思ったがたまには勝たせてやりたいという秀一なりの気遣いかもしれない。
そう思いその勝負を受けることにする。…よくよく考えばこの時に秀一がものすごく悪い顔をしていたことに気づくべきだったのかもしれない。


『しゅ、しゅういち……』


「ん?どうした。お前が受けると言った勝負だろう?」


『そ、うだけど…その。こんなの…っ!』


秀一は既にお菓子を咥えてにやにやと笑っている。とりあえず背の高さ的に立ったままだとしんどいので秀一をソファーに座らせたのだがこれではまるで。


『な、なんかその…!私が…キ、スしたいみたい…』


やっぱり秀一にゲームを決めさせたのは間違いだった。
そうなのだ。秀一は動かずソファーにゆったりと腰掛けているだけ。そして動かないときている。私は黙々とこの棒状のお菓子を食べ進めるだけ。それって結局最終的には、その。接吻をしてしまうという訳だ。
最初から秀一はこれに慌てふためく私を笑いたかったに違いない。


「なんだ、せっかく勝たせてやろうと思ったのに。これじゃあ不戦敗だぞ?」


一度お菓子を口から外してわざとらしく肩を竦めて見せる秀一。その動作が大げさでやけに鼻にかかる。大きく深呼吸をして腹を決めるときっと秀一のほうを真っ直ぐ睨み付けた。


『わ、分かったわよ!…やるから。動かないで』


秀一の膝に身体を乗り出し、その肩に手を置く。秀一は笑ってもう一度お菓子を咥え直した。


『…恥ずかしいからこっち見ないで…』


秀一の目はいつも鋭くて、獲物を追うような目つきをしている。
そんな瞳に間近で見つめられて、動揺しない方がどうにかしている。

仕方ないように軽く秀一は笑うと少し視線を落としてくれた。鋭い切れ目の瞳に短いまつ毛が浅くかかっている。それはかっこいい、というよりも美しい、の言葉がぴったりだった。この男は本当に憎らしいくらい完成されている。

秀一に顔を近づけると煙草の匂いが微かに香る。緊張で思わず震えてしまいそうなのを必死に堪えてもう片端を咥え、ゆっくりと食を進めていく。

お菓子の折れる音と、どくん、どくんとやけにうるさい鼓動が響く。図らずとも肩に置いた手に力が入る。伏し目がちの綺麗な顔が近づいてくる。恥ずかしさに思わず口を離しそうになるが、ここで離してしまってはすべてが台無しだ。息がかかる距離になってもそれを離さず、なるべくゆっくりと口を近づける。


『…ん、』


秀一の咥えていたお菓子がぽきりと折れた。勝った…!と思ったのもつかの間、すぐさま頭に手を回され、ぐいっと顔を近づけられると咬みつくようなキスをされた。
いつの間にか腰にも手をまわされ、厭らしく腰を撫でまわされる。ぞくぞくとした痺れがそこから全身に広がっていく。


『ふ、ぁ…っ』


「お前の勝ち。今日の料理当番は俺だな。…その前に」


ぐっと引き寄せられ、耳元に口を寄せられる。独特の低い声が鼓膜ですら犯す。


「お前を料理していいか?」


酷くギザな台詞だが、それに逆らえない私もどうにかしているんだろう。
秀一が言うならそんな言葉もかっこよく聞こえてしまう。

言葉にするのは恥ずかしく、そこまで理性もなくなってはいないが、熱っぽい目で秀一の鋭い目を見つめると、私も背中に腕をまわしながらこくんと頷いた。




170404
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