トタン
□コドモは、キライです
1ページ/1ページ
陽だまり。優しい風。上昇してくる気温。
遠くで聞こえる車の音。自転車。足音。話し声。
平和だなァー……。
うとうとと微睡んで、少し起きてぼおっとして、またいつの間にか眠ってて。
それを幾度となく繰り返して、あの小学生たちが戻ってきても困るし、そろそろ帰ろうかと身体を起こすがあまり動く気にもなれない。
ひとつ伸びをして座り直し、頭が痒いなと思ったから一生懸命使いづらい手を伸ばし掻いてみる。慣れないが今はこの身体なのだからこれでなんとかやるしかない。
「あ!朝の猫ちゃんまだいるよ!!」
ゲ……。
私はそんなに眠ってしまったのだろうか。そんな筈はない…いや、起きては寝てを確かに繰り返していたから、おかしくはないのかもしれない。
それにこの子たちは多分、小学1年生か2年生。学校の終わる時間は早い筈だ。
「ほら、少し柄が珍しくありませんか?なんという種類でしょうか…」
「さぁー、確かに三毛猫とはちょっと違うような…。まぁ混血って可能性もあるしな」
「こんけつってなんだ?尻のことか?」
「もぉー元太君、混血っていうのは、雑種ってことで…」
な、なんだこの個性的な小学生たちは…。
特にあのメガネの少年!あの子だけなんか浮きすぎ!今どきの小学生はませてるって聞いたことあるけど、あのメガネ君だけは特別製だ。最早ひとりだけコドモとは思えない。落ち着き方が小学生じゃない。
「灰原さん見えますか?可愛いでしょう?」
「……そうね」
茶髪の女の子もメガネ君と同じ匂いがする。こじれた家庭環境で育っているのだろうか、なん下世話なことを考えてみたが、今はこの子たちに捕まらないことが最優先だ。こんなコドモたちに捕まったら最後、何されるか分かったものじゃない。
「ねぇーどうしたら降りてきてくれるかな?」
「やめときなよ歩美ちゃん…、無理に追いかけても絶対に降りてこないだろーし」
良いこと言うじゃないメガネ君。私は降りる気なんてさらさらないわよ。
「それに野良猫だから、あんまり触らない方が」
前言撤回。なんて失礼なメガネなのだ。私は血統書付きの飼い猫よ!嘘、血統書はついてないけれど。
「でも、あの猫腕に包帯巻いてるぞ!」
「え?」
「怪我してるんでしょうか。だとしたらあんなところにいるの、危なくないですか?」
「もしかしたら腕が痛くて降りられないのかも…」
ちげーよお前らがいるからだよ。
まあでもこの屋根を降りて塀の上を早足に歩けば捕まることもないか。
騒ぐ小学生たちを無視してトタン屋根から降り、塀の上に降り立って歩き出す。ブロック塀の上はあまり幅が無いからそこまでのスピードは出せないがこの子たちが塀の上をよじ登ったりする暇はないだろう。
「動き出しましたよ!」
「追いかけよ、コナン君!」
「え…マジかよ」
「灰原さんもいきましょう!」
「私パス…。今日は早く帰らなくちゃいけないから先に帰るわ」
「そうですか?でも…」
「オイ、早く行こうぜ!見失っちまう!」
着いてくるんじゃないわ餓鬼ども。
てってって、とリズミカルに走ると、ひな鳥のように追いかけてくる子供たち。もうすぐ安室さんの家だ。家まで逃げ込めばこちらのものだ。二度と会うこともあるまい。
…そう思っていたのだが。
『ニャッ!?』
し、閉まってる!?
ちらりと中を覗いてみたが、部屋に人影は無かった。出かけているのだろうか。確かに安室さんの部屋は一階だし、窓を開けたまま家を空けるのは不用心だろう。
にしても、どうしよう!?
このまま安室さんの部屋の前で待っていてもコドモたちの追いつかれるだろうし、何よりもうすぐ後ろまできている。とりあえずはそのまま真っ直ぐ突き進むと他の家の屋根に飛び移れるところがあったのでそこに逃げ込むと、流石にコドモたちも観念したようだ。
「もうあそこまでいっちゃったら触れないね…」
「まぁいいんじゃねーか?これだけ歩けたら腕の怪我も大丈夫だろうしな!」
「灰原さんも帰っちゃいましたしね…」
反省会かよ。そして総括を行おうとしているメガネ君がおもしろい。
兎にも角にも難は去ったようだ。4人のコドモたちが別々の道に入ったのを確認してから誰も行かなかった方向へ足を延ばす。
安室さんが帰ってくるのは何時だろうか。なんにせよ時間を潰さなくちゃならない。
一度地面に降りてみよう。こっち方面は車通りが少なそうだし大丈夫だろう。もし危なかったらまた登ればいいし。
恐る恐る地面に降り立つ。地面が近い。街が大きい。
「………」
まるで分かっていたかのように人影が現れて目が点になる。あ、あ、あなたは…!
「やっぱりね…」
さっきのコドモ達といたやたらと大人っぽい女の子じゃないか!!!
え、なんで?帰ったんじゃないの!?捕まるの!?
「あなた…人間でしょ?」
な、何ィーーーーーッ!?!?
180209