短編2

□雨の日
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『雨、雨、雨、雨!あーもう!いつまで梅雨やってんのよ、ってカンジ』


もうとっくに7月に入っているというのにこの天気はなんだろう。朝起きれば灰色の雲に憂鬱になるし、仕事に行けば足元はぐちゃぐちゃだ。たまに雨が止んでデートにでかけたら途中でとうとう我慢できなくなったかのように降り出す始末。ぼたぼたと重力にまるで逆らおうともしないで地面に落ちる雨を覗き込むように見上げながら私は大きな声で不満を露わにした。


「ま、でも降りそうだからって早めに帰ってきてよかったね」


『間に合ってないどころか帰ってる途中に降りだしちゃったけどね。家まであと100mってとこかな。ボルトだったら10秒かかんないくらいか』


「10秒で走ってもずぶ濡れにはなると思うよ」


『もう充分ずぶ濡れなんですけど』


久しぶりに零君が1日休みだったから、隣町のショッピングモールにお出かけしたところまでは良かったのだがお昼ご飯を食べて外に出てみると雲が随分不穏な様子を見せていた。私はまだまだ買いたいものがあったのだがこの天気じゃ仕方ないと早めに切り上げて最寄りの駅まで戻ってきたのだが夕飯の材料をスーパーで買って歩いている途中にとうとう降りだしてしまったのだ。
それもあ、降ってきたなと感じたのは一瞬で、数秒と経たないうちにばけつをひっくり返したような雨になったものだからとりあえずシャッターの降りた店の軒下を拝借しているという訳である。

痛い程強く降る雨は景色すら白く染めてしまっている。
額に張り付く髪の毛が気持ち悪い。取り払おうと持っていたスーパーの袋を片手に持ち替えようとするとひょいとそれを零君に取り上げられた。


「ほら」


『ん……ありがと…』


ついでに髪の毛までささっと直してくれたものだから今更ながら恥ずかしい気持ちになった。髪の毛はぐちゃぐちゃでワカメみたいに顔に張り付いているだろうし、化粧だって崩れてしまっているだろう。服もぴったりと体に張り付いてもうなんか泣き出したいような気分になった。

それなのに零君ときたら。

ちらりと横目で零君をみる。なんでこの人雨に濡れていても格好いいの。水に打たれしんなりとした髪ですら色気を漂わせている。元々着痩せするタイプだから、身体にぴったりと服が張り付くと鍛えられている身体のラインが浮き出ていて艶めかしい。白いシャツが肌に馴染んで筋肉の筋がはっきりと出ている。うわあこのラインなぞってみたいと指が動きかけたが流石に変態だと思われそうでなんとか思い止まった。


「どうかした?」


『なんでも…』


この人の勘の良さには舌を巻く。時々私のバカみたいな考えもなにもかもお見通しなんだろうなと感じることがある。零君の視線がくすぐったくて軽く背を向けると肩ひもをすっとなぞられて身体中の毛が逆立つような錯覚がした。


『ひやぁ!!な、何?』


「エロい」


『は!?!』


零君が耳にそっと顔を寄せる。零君の髪の毛の水が滴って私の肩に乗っかった。


「ブラ。透けてる」


『へ、へ、へんた……!』


わなわなと震える私を見て零君が楽しそうに笑った。からかわれている。完全に掌で転がされている。


「お互い様だろ。瑠璃だって僕の身体みて変なこと考えてたじゃないか」


『か!?考えてない…もん…』


変なことは考えてない。ちょっと筋肉に触りたいと思っただけなのだ、なんて言い訳にもならなさそうだったので口をつぐんだ。それを零君は肯定ととったみたいで優しく笑いながら私の腰に手を回した。
濡れたお互いの身体が生々しい。


「走ろうか」


『え?』


「このままここにいても仕方ない。弱まりそうにないしね、この雨」



『うーん…仕方ないか』


「それにあんまりここにいて誰かにこんな瑠璃の姿を見られても嫌だし」


『……そうですか』


零君が私の手をぎゅっと握る。お互い目を合わせると、いちにのさんで軒下を飛び出した。







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