短編2

□雨の日
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『はぁ…はぁ…もうびちょびちょ…』


「すごい雨だったな…」


前も後ろも見えない程の雨で、身体が濡れるのも汚れるのもお構いなしになんとか家に帰ってきた。服がたっぷり水を含んで重たい。


「今バスタオル取ってくるよ。そこで待ってて」


『うー、ごめん…』


玄関で靴を脱ぐにも纏わりついて一苦労だ。一足先に部屋に入った零君がバスタオルを持ってきてくれる。身体を軽く拭いてからとりあえず部屋の中に入る。


「酷い雨だな。夜には電車止まるかもしれないみたいだから、やっぱり早めに帰ってきてよかったよ」


『そう…。もう7月なのにお日様全然見てないなぁ』


「毎日暑いのもそれはそれで嫌だろ?ほら、髪の毛拭いてあげる」


ばさりと頭からバスタオルをかぶせられ好きなように頭を拭かれる。温かい感触にホッとする。まだお昼過ぎだというのに電気を点けなければ部屋が薄暗い。窓の外からは雨の音が相変わらず響いている。

寒い…。

濡れた服が体温を奪っていくようでぶるりと身体を震わせた。それに気がついたのか、零君が私の方をじっとみる。


「寒いの?」


私は薄暗い部屋でその瞳を見つめ返す。


『ん。ちょっと…冷えちゃったかな。でも大丈夫。ありがと、あとは自分で…』


気恥ずかしくなって頭にかかったバスタオルを手に取った瞬間キスされた。柔らかい唇。零君のぬくもり。


『ん…っ、ちょ、零君…』


触れるだけの唇は幾度となく繰り返し、私を溶かしていく。部屋が薄暗い。世界は青く染まる。


「脱がしてあげよう」


『や、自分でやるから、いい」


「自分で脱いでくれるの?」


『…なんでいちいちそういう言い方するかな』


ぷぅとむくれてしまった私を零君が抱きしめる。肌と肌が触れ合う感触。生々しい体温が伝わってくる。雨の音がする。どこかの犬が鳴いている。外界と隔離されてしまったかのような、非現実的な空間。


「瑠璃、こっちむいて」


零君の胸に顔を埋めていた私に優しく声をかける。そんな優しい声で、そんなことを言われて言うことを聞けない女の子がどこにいるだろう?私は素直に顔を上げた。

唇が、唇に触れた。柔らかい感触。ゆっくりと力が抜けていく。いつもいつも、この瞬間はえもいわれぬ緊張と感動に満たされる。これから始まる行為に対しての期待と不安。それでもあなたを愛おしいと想う気持ち。私は腕を零君の肩に回す。

舌がそっと私の唇を割って入り込んでくる。それと同時に身体に触れる熱い手。冷えた私の身体を温めるのには充分だ。びくりと跳ね上がりそうになる身体を私は必死に零君の身体に押し付けることでそれをなんとか留めた。


「それ、わざと?」


意地悪な顔で零君が問う。そんなことを言われても、そうやって零君にしがみついてないと身体がばらばらになってしまいそうなのだ。恥ずかしさを隠すようにもう一度零君の胸に顔を埋める。

零君の身体の匂いがした。


くすくすと子どもを笑うような声と、お尻をつっとなぞる指はどちらが早かっただろうか。
私はより一層身体を強張らせて零君に抱き着いた。シャツが身体に張り付いていることすら鮮明に感じる。


『あ…っや、…ッ』


お尻を撫でまわした手はそのまま太腿に。身体中が零君の指を感じようと敏感になってしまっている。零君が私の濡れたシャツをたくし上げると下着が露わになった。もう私にそれを隠すすべはない。

キスをする。零君の舌が私のすべてを食べつくそうと蹂躙する。そうこうしている間にブラジャーのホックを外され、上半身が外気を浴びる。顔を離されそこで漸く押し倒された。零君は獲物を見つけた獣のような荒々しい顔で私の首筋に吸い付いた。


『い、…ッ、いた…っ』


かぷりと甘噛みされているはずなのに溶けるような痛みを感じる。休みなく手は私の乳房を弄ぶ。ちゅ、ちゅ、と音を立てて零君の顔が胸のあたりにまで降りてきてびくりと身体を強張らせた。零君の濡れて纏まった髪が肌に触れてくすぐったかった。

熱っぽく、いやらしく、総てを欲するように零君は私の胸に舌を這わせた。胸が熱い。そんなに激しく求めないでほしい。だって。


「瑠璃」


『ん、…?』


「エロい顔してる…」


『うるさい……』


恥ずかしいのに、もう、下腹部が熱く疼いてしまってどうしようもない。もう一度零君の指が太腿に触れるとどきんと胸が高まった。私の中の女がもう、その先を待ち望んでしまっている。
ショーツの中に手を入れられると背中が仰け反った。強すぎる快感が身体の中を駆け巡る。


『あ…ッ、だめ…ッ』


「嘘つき。気持ちいいくせに」


自分でも分かるくらいに濡れてしまったそこをひっかかれる。その度に私は甘い声を漏らしながら零君に抱き着いた。長くて細い指が私の中に侵入する。反射的にびくりとそこが縮こまり、零君の指をしっかりと感じた。

だけど、もどかしい。指も気持ちいい。だけど、もっと。もっと…。


『れい、くん…』


「ん?」


『も…わた、し…れいくん…』


「………ん」


零君は満足そうな笑みを零すとカチャカチャとベルトを緩めズボンを降ろした。雨はまだ降り続いている。


零君の熱くて大きくなったそれが私の入り口に宛がわれた。ぬるぬると2、3回そこを往復して、私の中にゆっくり、ゆっくりと入り込んでくる。私が征服されていく感覚。それがひどく気持ち良い。零君のそれが奥までしっかり入り込んだ瞬間私は身震いをした。二人がひとつになった快い感情。


『零君…ッ、きもち…あッ!!あッ!』


「瑠璃…」


耐え切れなくなったように激しく零君の腰が動く。奥の奥まで零君で満たされていく。強さを変え、角度を変え、零君が何度も何度も私の中を抉っていく。その度に私はただただ喘ぎながら頭を真っ白にするしかなかった。

零君の肌はすべすべして作り物みたいで、でもそこに伝わる熱や鼓動が、零君は確かにここに存在することを証明させた。


『あッ!だ、め…ッ、れいく…ッ!私…ッ』


「く…ッ、…ッ…ッ」


零君の腰の動きがはやくなる。零君が私で限界を迎えようとしていることに悦びを覚える私ははしたない子なのだろうか。ああ、でも、今はそれでも。


『あッ!あッ!!………ッ!!!』


「瑠璃…ッ!!」


零君のすべてを、私のすべてで感じていたい。

外ではやっぱり、雨が降り続いていた。











「はい、ココア」


『ありがと。…あったかーい!』


シャワーを浴びてすっきりした身体でふたり、薄い夏用の布団にくるまってコーヒーとココアを飲む。甘ったるい味が舌に沁みわたる。
雨は一向に弱くならない。陽が沈んで心なしか青くなった空をぼんやりと窓から見つめる。


「たまには雨も悪くないね」


『毎日降ってるじゃない…』


こつんと零君の肩にもたれる。それを許した零君は腰に手をまわし、なんとも気怠く甘い時間が二人の間に流れた。


「落ち着く。雨の匂いも音も空気も、…鬱陶しい時もあるけど、嫌いじゃない」


『ふふ、零君、小説家になれるよ。でも分かるなぁ。雨が降ってると音が良く響くし。…朝起きたときにね、車とかバイクが走る音がやたらと響いてたら、あぁ、雨が降ってるなァって思うの』


「瑠璃だって小説家になれるよ」


『まさかぁ』


「すこし眠ろうか」


ことり、と零君がカップを机に置いた。私もそれに倣ってカップを置く。二人で横になる。雨の音がする。


『窓、ちょっとだけ開けててもいい?』


「いいよ。あんまり開けると雨が入ってくるから、少しだけね」


『起きたら夕飯の準備…しなくちゃ…』


「一緒に作ろう。そういえばこの間結局見れなかった映画の再放送録画しておいたから……」


『…………』


すぅ、すぅと柔らかな寝息。全く、寝るのだけは一人前に早いんだから。
規則正しく揺れる頬にキスをしてから僕も眠りにつく。

雨の音が快い。
その音に満たされながら少しずつ二人で夢の中に溶けていった。





190719
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