安室狂愛

□やまない雨
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雨、やまないなぁ。


喫茶ポアロの窓からぼおっと外の世界を見つめ、七条瑠璃は頭の隅で呟いた。


今日も、昨日も、一昨日も…ずっとずっと雨で、ただでさえテスト期間中なのに気分が憂鬱としてしまう。

だめだめ、集中しないと。
そう思い直し、広げていたノートに視線をおとす。

『……うぅ…』

苦手な化学に思わずうめき声をあげてしまう。
化学式とか、そんなの無くたって生きていけるのに。


「失礼します、ホットコーヒーです」

『あ、ありがとうございます』

コトリ、とノートの近くにコーヒーを置かれる。
明日のテストな難関だなぁ、なんて思っていると帝丹高校ですか?と男の人の声が降ってくる。

『え?……そうですけど』

何故そんなことを聞くのだろう、と訝しげに声のする方を見れば、あまり見たことのない少し黒めの肌に、明るい髪の色。


「あ、いえ、その制服、この辺でよくみかけるので」

私の訝しげな視線に気づいたのか、慌てて弁解するように話し出す男の人。

こんな人、従業員にいたっけ?

ポアロには家が近所なこともあり小さいころからよく来ていたが、この人は初めて見る。

「僕が誰なのか、気にしていますね?」

優しい物腰が、一瞬、ほんの一瞬だけ突き刺すように鋭くなったような気がして緊張が走る。

『あ、いえ…。ただ、初めて見る顔だったので…』

なんとなくその鋭い目を見ていられなくなって視線をはずす。

「すみません、挨拶もしないで…。僕の名前は安室透。昨日からここでお世話になっています」

『あむろ、さん…』

変わった名前だなあと思いつつ、私もちゃんとあいさつしなくっちゃ、と思い直す。

『私は七条瑠璃です。よくここには来るのでよかったらまた声かけてください』

きちんと目を見て話す。安室さんはにこっと笑った後、私の手元のノートに視線をおろす。

「へぇ…、化学ですか。おや、ここ、間違っていますよ」

『え?どこですか?』

「ここです。これは二酸化炭素が水素と反応してですね…」

さらさらと私が30分悩んでも解けなかった問題を説明する安室さんをぽけっと見つめる。

一瞬みただけで…。

「…分かりましたか?」

『え、あ、はい。…すごいですね。一瞬みただけで…説明もちゃんとわかりやすいし』

「まぁ、職業柄、化学は得意なので」

『え?職業?』

ポアロのバイトに化学なんているだろうか?

安室さんは、あ、と小さく呟くと、悪戯に笑いながら、あまり大きな声では言えないのですが、と、

「実は僕、探偵なんです」

『探偵、さん?』

まあまだまだ見習いなんですけど、と苦笑い。
探偵と言えば、新一は今何してるんだろう、とふと思う。

「すみません、勉強の邪魔をして。では僕は仕事に戻りますね。テスト頑張ってください」

にっこりと笑い、仕事に戻る安室さんの後姿を見送ってから勉強に意識を戻す。

まぁ、優しそうな人だったし、感じの悪い人ではなかったな。

教えてもらった問題を解きながら、窓の外の雨が益々強くなったのを感じた。


140717

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